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昭和十六年の日本国  作者: 秋雲 榛名


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八 戦争を止める命令


昭和十六年十二月八日、午前八時。

首相官邸。

東條英機は、陸海軍の首脳を集めていた。

会議室には、重苦しい空気が漂っていた。

海軍側は、真珠湾攻撃の中止について慎重だった。

機動部隊はすでに作戦海域に達している。

米軍との偶発戦も起きた。

ここで引き返せば、米国に日本の作戦意図を知られる可能性がある。

陸軍側も、対米開戦を中止した後の外交方針について、明確な見通しを持っていなかった。

「今さら引き返せというのですか」

海軍の高官が言った。

東條は、机の上の報告書を見た。

「未来日本は、我が国が敗北すると言っている」

「それが事実とは限りません」

「事実ではないと証明できるのか」

高官は黙った。

東條は続けた。

「我々は、未来の情報を得た。これを無視して開戦することはできん」

陸軍の将校が言った。

「しかし、米国が譲歩する保証はありません」

「分かっている」

「中国からの撤兵を求められれば、陸軍は到底受け入れられません」

東條は、その将校を見た。

「では、戦争を始めれば解決するのか」

将校は答えなかった。

東條は、ゆっくりと言った。

「私は、帝国の名誉を軽んじるつもりはない」

誰も動かなかった。

「しかし、名誉を守るために国家を滅ぼしてはならん」

その言葉は、東條自身にとっても重かった。

彼は軍人だった。

国家の威信を重んじ、強硬な外交を支持してきた。

それでも、未来の資料を前にして、これまでと同じ判断を下すことはできなかった。

「対米開戦を延期する」

東條は言った。

室内がざわついた。

「第一航空艦隊には、攻撃中止を命じる」

海軍の高官が立ち上がった。

「総理!」

東條は手を上げた。

「異論は承知している」

声は静かだった。

「だが、今は時間が必要だ」

誰も、すぐには反論しなかった。

東條は続けた。

「米国との交渉を再開する。中国との戦争についても、改めて検討する」

真壁は、その言葉を聞いていた。

会議室の誰もが、これで戦争が終わるとは思っていなかった。

むしろ、問題はこれからだった。

対米開戦を延期すれば、国内の強硬派が反発する。

中国との戦争は続いている。

資源問題も解決していない。

ドイツとの同盟も残っている。

しかし、少なくとも。

真珠湾への攻撃は、止められた。

真壁は、机の下で拳を握った。

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