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昭和十六年の日本国  作者: 秋雲 榛名


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十五 満洲の秘密施設


 六月一日、満洲国・北部。


 フリードリヒ・クラウスは、雪の消えた森林地帯にある建物へ入った。

そこは、八咫烏計画の旧施設とは別の場所だった。

小規模な研究設備が置かれ、数名の技術者が作業している。

クラウスは、机の上の資料を確認した。

未来日本から流出した科学技術資料。

関東軍の研究記録。

ドイツの原子核研究に関する文献。

それらが、雑然と積み重ねられていた。

日本人の将校が近づいてきた。

「クラウス博士」

「何でしょう」

「東京からの監察が、さらに厳しくなっています」

クラウスは頷いた。

「知っています」

「この施設も、いずれ見つかるでしょう」

クラウスは、少し考えた。

「それまでに、必要な資料を整理します」

将校は、顔を上げた。

「研究は続けないのですか」

「続けます」

クラウスは、静かに答えた。

「ただし、場所を変える必要があります」

将校は、しばらく黙っていた。

「どこへ」

クラウスは、地図を広げた。

そこには、満洲から朝鮮半島、そして日本海へ続く経路が描かれていた。

「ここです」

将校は、地図を見た。

「朝鮮?」

「ええ」

クラウスは、静かに答えた。

「東京の目が届きにくい場所へ、研究資料を移します」

将校は、少し考えた。

「しかし、朝鮮も帝国の統治下です」

「だからこそ、移動しやすい」

クラウスは、資料を閉じた。

「必要なのは、時間です」

将校は頷いた。

クラウスは、窓の外を見た。

森林の向こうには、初夏の空が広がっていた。

しかし、彼の頭の中には、別の光景があった。

未来日本の歴史資料に記されていた、広島と長崎の写真。

焼け野原となった都市。

破壊された建物。

そして、原子爆弾の閃光。

クラウスは、その写真を初めて見たとき、恐怖を感じた。

しかし、同時に、科学技術の力にも圧倒された。

人類は、これほどのエネルギーを手に入れることができるのか。

その力を、ドイツが先に持てば。

クラウスは、机の上の資料を見つめた。

「歴史は、変えられる」

彼は、小さく呟いた。

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