十三 真壁と小野寺
五月二十七日、京都。
真壁宗一郎と小野寺美咲は、久しぶりに顔を合わせていた。
二人は、京都の外交協議施設の一室で、八咫烏計画とクラウスの行方について情報を交換していた。
小野寺は、研究所の監視カメラ映像を見せた。
「クラウスは、清掃員に変装した協力者の手引きで逃走したと考えています」
真壁は、画面を見た。
「この男が協力者か」
「はい」
「身元は?」
「まだ特定できていません」
真壁は、しばらく考えた。
「クラウスは、満洲へ戻った可能性があります」
小野寺は、顔を上げた。
「根拠は?」
「関東軍の関係者から、不審な外国人が移動しているという報告がありました」
「クラウスですか」
「可能性があります」
小野寺は、資料を閉じた。
「また満洲ですか」
真壁は、少し苦笑した。
「ええ」
小野寺は、しばらく黙っていた。
「真壁さん」
「はい」
「あなたは、どうしてそこまで協力してくれるんですか」
真壁は、少し驚いた顔をした。
「どういう意味ですか」
「昭和日本の軍人ですよね」
「そうです」
「私たちは、別の国の人間です」
真壁は頷いた。
「そのとおりです」
小野寺は続けた。
「それでも、危険を冒してまで協力する理由があるんですか」
真壁は、しばらく考えた。
「最初は、帝国のためでした」
小野寺は黙っていた。
「未来日本の技術が、軍の一部に利用されることを防ぐ。それが、帝国を守ることになると考えました」
真壁は、窓の外を見た。
「しかし、今は少し違います」
「どう違うんですか」
真壁は、静かに答えた。
「未来日本の人々にも、家族がいることを知ったからです」
小野寺は、少し笑った。
「当たり前じゃないですか」
「そうですね」
真壁も笑った。
「しかし、軍人というものは、相手を国家や組織として見てしまうことがあります」
小野寺は、黙って聞いていた。
「未来日本も、最初は奇妙な国家にしか見えませんでした」
真壁は続けた。
「しかし、あなた方と話しているうちに、そこにも普通の生活があると分かりました」
小野寺は、少し考えた。
「私も、同じかもしれません」
真壁は、顔を上げた。
「最初は、昭和日本の軍人なんて、信用できないと思っていました」
真壁は、苦笑した。
「当然でしょう」
「でも、今は違います」
小野寺は、静かに答えた。
「少なくとも、真壁さんのことは信用しています」
真壁は、少し照れたように笑った。
「ありがとうございます」
二人は、しばらく窓の外を眺めていた。
京都の街には、初夏の風が吹いていた。




