十一 大野健司の仕事
五月二十三日、未来日本・福井県。
大野健司は、久しぶりに長距離輸送の仕事を任されていた。
運ぶのは、昭和日本から輸入された米だった。
敦賀港へ陸揚げされた米を、関西方面の備蓄倉庫まで運ぶ。
燃料の配給が厳しくなってから、仕事は大きく減っていた。
しかし、食糧輸送だけは優先される。
大野は、トラックの荷台を確認した。
袋詰めの米が、きれいに積まれている。
会社の所長が近づいてきた。
「大野、頼むぞ」
「分かってます」
「途中で燃料を無駄にするなよ」
「そんなこと、言われなくても」
大野は、少し笑った。
所長も笑った。
「悪いな。最近、俺も細かくなって」
「仕方ないですよ」
大野は、運転席へ乗り込んだ。
エンジンをかけると、久しぶりに聞く音が車内へ響いた。
高速道路へ入ると、以前より車の数が少なくなっていることに気づいた。
物流の縮小。
燃料の不足。
経済活動の停滞。
未来日本は、戦争をしていない。
しかし、生活は確実に苦しくなっていた。
大野は、ラジオをつけた。
ニュースでは、京都停戦協定の進展と、ドイツの情報活動について報じていた。
大野は、少し眉を寄せた。
「また、戦争の話か」
独り言を呟いた。
彼には、国際政治の難しいことは分からない。
しかし、米を運ぶ仕事があることは、ありがたかった。
家族の生活を守るためには、働かなければならない。
途中のサービスエリアで休憩すると、同じ運送会社の運転手に会った。
「大野さん、久しぶりですね」
「ああ」
「仕事、戻ってきました?」
「少しだけな」
運転手は、缶コーヒーを手にしていた。
「昔は、仕事が多すぎて嫌になったもんですけどね」
大野は、笑った。
「今じゃ、仕事があるだけありがたい」
「本当ですよ」
二人は、しばらく駐車場を眺めていた。
トラックの数は少なかった。
以前なら、昼夜を問わず車が出入りしていた場所だった。
運転手が言った。
「このまま、元の生活に戻るんですかね」
大野は、少し考えた。
「分からん」
「ですよね」
大野は、缶コーヒーを飲んだ。
「でも、荷物は運ばなきゃならん」
運転手は、少し笑った。
「それは、そうですね」
大野は、トラックへ戻った。
エンジンをかけ、再び走り出した。
本職が忙しいと全然執筆出来ない。




