十六 残された封筒
五月十日、午前六時。
研究施設の捜索が続く中、小野寺美咲が現場へ到着した。
三浦隆文は、救急隊員の診察を受けていた。
小野寺は、三浦へ近づいた。
「三浦さん」
三浦は、顔を上げた。
「小野寺さん」
「お怪我は?」
「大丈夫です」
小野寺は、少し安心した。
「よかった」
三浦は、苦笑した。
「また、助けてもらいましたね」
「今回は、私が来る前に終わってしまいましたけど」
三浦は、しばらく黙っていた。
「小野寺さん」
「はい」
「また、未来の技術を求められました」
小野寺は頷いた。
「聞いています」
「いつまで、こんなことが続くんでしょう」
小野寺は、すぐには答えられなかった。
「分かりません」
三浦は、静かに息を吐いた。
「研究を続けたいだけなんですけどね」
小野寺は、三浦を見た。
「そのために、私たちがいます」
三浦は、少し笑った。
「ありがとうございます」
その後、小野寺は現場の確認を始めた。
研究室の机には、書類が散乱していた。
パソコンの一部は破損していたが、主要な研究データは保護されていた。
警察官が声をかけた。
「小野寺さん、これを」
差し出されたのは、一通の封筒だった。
研究室の床に落ちていたという。
小野寺は、手袋をしたまま封筒を開いた。
中には、一枚の紙が入っていた。
ドイツ語で短い文章が書かれている。
小野寺は、翻訳担当者へ確認を求めた。
しばらくして、訳文が届いた。
『未来を知る者が、未来を決めるとは限らない。』
その下には、奇妙な印が描かれていた。
三本の足を持つ烏。
八咫烏だった。
小野寺は、しばらく紙を見つめた。
関東軍の秘密研究計画。
ドイツの情報関係者。
未来日本の研究施設への侵入。
そして、八咫烏の印。
すべてが、一本の線でつながり始めていた。
小野寺は、真壁宗一郎へ連絡を取った。
電話がつながると、真壁の声が聞こえた。
「真壁です」
「小野寺です」
「三浦さんは?」
「無事です」
真壁は、深く息を吐いた。
「それはよかった」
小野寺は、封筒を見た。
「真壁さん」
「はい」
「現場に、八咫烏の印が残されていました」
電話の向こうが静かになった。
「間違いありませんか」
「はい」
真壁は、しばらく黙っていた。
そして、低い声で言った。
「八咫烏計画・・・ まだ、終わっていなかったか」
小野寺は、窓の外を見た。
研究施設の周囲には、朝の光が差し込んでいた。
しかし、クラウスの姿は見つかっていない。
未来日本の技術を巡る争いは、さらに深いところへ広がろうとしていた。




