九 四月三十日
四月三十日、未来日本・東京。
ドイツ政府が設定した回答期限の日が来た。
榊原直人は、首相官邸で最終的な回答文書を確認していた。
未来日本政府は、ドイツに対して軍事技術の提供を拒否することを決めていた。
ただし、医療、農業、災害対策などの民生分野については、国際的な枠組みの中で協力を検討する用意があると伝える。
榊原は、文書に署名した。
「これでお願いします」
外務大臣が頷いた。
「承知しました」
同じ日、昭和日本政府もドイツへ回答を送った。
昭和日本は三国同盟を維持する一方、未来日本の軍事技術をドイツへ提供する権限はないと説明した。また、自国が保有する技術についても、国家の安全保障上の理由から無制限の提供はできないとした。
二つの日本は、別々の文書を送った。
しかし、結論は同じだった。
ドイツの要求は、受け入れられなかった。
その日の夕方、ベルリンでは外交文書が総統官邸へ届けられた。
ヒトラーは、報告書を読んだ。
そして、しばらく黙っていた。
「日本は、我々を見捨てるつもりか」
側近は、慎重に答えた。
「昭和日本は、同盟を維持する方針です」
「では、なぜ協力しない」
「未来日本の技術については、提供する権限がないと」
ヒトラーは、机を叩いた。
「言い訳だ!」
側近は黙った。
ヒトラーは、しばらく部屋を歩き回った。
「未来日本は、我々の敗北を知っている」
誰も答えなかった。
「だから、協力しないのだ」
ヒトラーは、壁の地図を見た。
東部戦線では、ドイツ軍がソ連との戦争を続けている。北アフリカでも戦闘が続いていた。
未来日本が現れたことで、世界の政治情勢は変化している。
しかし、ドイツの戦争は終わっていない。
ヒトラーは、側近へ命じた。
「日本に関する情報活動を強化しろ」
「承知しました」
「未来日本の技術を、別の方法で手に入れる」
側近は、少し躊躇した。
「外交上の問題が生じる可能性があります」
ヒトラーは、振り返った。
「外交で手に入らないのなら、他の方法を考えるまでだ」
その言葉は、ベルリンの情報機関へ伝えられた。




