七 ヴェーバーの証言
四月二十七日、未来日本・東京。
ハンス・ヴェーバーは、警察関係者と外務省の担当者から事情聴取を受けていた。
部屋には、小野寺美咲も同席していた。
ヴェーバーは、長崎から東京へ移送されたあと、十分な休息を取っていた。しかし、表情にはまだ疲れが残っていた。
担当者が尋ねた。
「佐伯和彦さんの電子機器を、どのように入手しましたか」
ヴェーバーは、しばらく考えた。
「上海の仲介人から購入しました」
「名前は」
「本名は知りません」
「どのような人物でしたか」
「中国人の男性です。三十代くらいだったと思います」
小野寺が口を開いた。
「佐伯さんが殺害されたことは、いつ知りましたか」
「機器を購入したあとです」
「購入前に、佐伯さんと会ったことは?」
「ありません」
小野寺は、ヴェーバーを見た。
「本当ですか」
ヴェーバーは頷いた。
「はい」
小野寺は、資料をめくった。
「では、八咫烏計画について聞きます」
ヴェーバーの表情が変わった。
「その名前を、どこで」
「あなたが、上海から送った情報に記されていました」
ヴェーバーは、しばらく黙った。
「私は、満洲で研究が進められていることを知っていました」
「誰から聞いたのですか」
「ドイツの情報関係者です」
「名前は」
ヴェーバーは、少し迷った。
「フリードリヒ・クラウス」
担当者が顔を上げた。
「その人物は、何者ですか」
「ドイツの科学技術情報を扱う人物です。表向きは工業関係の顧問として活動しています」
小野寺は、メモを取った。
「現在、どこにいるのですか」
「分かりません」
「満洲にいたことは?」
「あります」
ヴェーバーは、静かに答えた。
「関東軍の将校と接触していました」
「野村清隆ですか」
ヴェーバーは、驚いた顔をした。
「その名前を知っているのですか」
小野寺は答えなかった。
ヴェーバーは、しばらくして頷いた。
「はい。野村大佐です」
部屋の空気が変わった。
小野寺は、さらに尋ねた。
「クラウスは、何を求めていたのですか」
「未来日本の科学技術資料です」
「核兵器に関するものですか」
「それも含まれます」
ヴェーバーは、少し間を置いた。
「ただし、彼らは資料を持っていれば兵器が作れると考えていました」
「実際には違う?」
「ええ」
ヴェーバーは、静かに答えた。
「研究設備も、材料も、工業技術も必要です。未来の知識だけで、未来の兵器を作ることはできません」
小野寺は頷いた。
「それでも、研究を進めていた」
「はい」
ヴェーバーは、机の上の電子機器を見た。
「彼らは、未来の歴史を変えたかったのです」
小野寺は、しばらく黙っていた。
「あなたは?」
ヴェーバーは、顔を上げた。
「私も、最初はそうでした」
「今は違うのですか」
ヴェーバーは、ゆっくり答えた。
「未来を変えることと、未来の兵器を作ることは、同じではないと気づきました」




