六 京都の非公式会談
四月二十六日、京都。
榊原直人と東條英機は、少人数の非公式会談を行っていた。
会談場所は、以前から外交協議に使われている迎賓施設だった。
庭には新緑が広がり、窓を開けると鳥の声が聞こえた。
榊原は、ドイツからの外交文書を机に置いた。
「四月三十日までに回答を求められています」
東條は頷いた。
「帝国にも同じ文書が届いております」
「どう対応されますか」
東條は、少し考えた。
「三国同盟の問題があります」
榊原は黙っていた。
「帝国は、ドイツとの同盟を結んでいます。しかし、未来日本は同盟国ではない」
「はい」
「ドイツが未来日本へ技術提供を要求する根拠は、薄いでしょう」
榊原は頷いた。
「私たちも、そう考えています」
東條は続けた。
「ただし、帝国がドイツとの関係を急激に悪化させることは避けたい」
「理解しています」
榊原は、資料を開いた。
「私たちは、軍事技術の提供を拒否します。ただし、医療や食糧生産など、民生分野での協力については協議する用意があります」
東條は、しばらく考えた。
「帝国も、同様の方針を取ることは可能でしょう」
榊原は、少し安心した。
「それなら、共同で回答することも考えられます」
東條は、首を振った。
「それは難しい」
榊原は、顔を上げた。
「なぜですか」
「帝国と未来日本は、別の国家です」
東條は、静かに答えた。
「同じ内容の回答を出すことはできても、一つの政府のように振る舞うことはできません」
榊原は、しばらく考えた。
「そのとおりですね」
東條は、少し笑った。
「貴方方と協力することには賛成です。しかし、帝国の独立を守ることも、私の責任です」
榊原は頷いた。
「私も、未来日本の独立を守る責任があります」
二人は、しばらく黙っていた。
同じ日本という名前を持つ二つの国家。
しかし、歴史も制度も国民も異なる。
その違いを認めなければ、協力は長続きしない。
榊原は、別の資料を取り出した。
「もう一つ、相談したいことがあります」
「何でしょう」
「八咫烏計画です」
東條の表情が変わった。
「研究施設は封鎖しました」
「承知しています。しかし、資料の一部が持ち出されています」
「その件も、調査中です」
榊原は、慎重に続けた。
「ドイツの情報関係者が、計画に関与していた可能性があります」
東條は、しばらく黙った。
「証拠は」
「まだ断片的です」
榊原は、長崎へ到着したヴェーバーの報告を説明した。
東條は、厳しい顔で聞いていた。
「ドイツが、帝国の軍事研究へ関与していたというのか」
「可能性があります」
東條は、机の上の資料を見た。
「もし事実なら、重大な問題です」
榊原は頷いた。
「はい」
東條は、静かに言った。
「調査を進めましょう」




