↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
昭和十六年の日本国  作者: 秋雲 榛名


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
136/166

四 上海から来た男


 四月二十四日、未来日本・長崎。


 長崎港の一角に、古い貨物船が停泊していた。

その船から、一人のドイツ人が降りてきた。

ハンス・ヴェーバーだった。

彼は、上海での銃撃事件から逃れたあと、中国人の協力者たちに助けられ、複数の港を経由して日本へ到着した。

外套は汚れ、顔には疲労が浮かんでいた。

港では、未来日本の警察関係者が待っていた。

その中に、小野寺美咲の姿があった。

三十四歳。以前、昭和日本の軍人による未来日本の研究者誘拐事件に関わった警察官だった。

小野寺は、ヴェーバーへ声をかけた。

「ハンス・ヴェーバーさんですね」

ヴェーバーは、少し驚いた顔をした。

「はい、私がヴェーバーです。」

「日本語がお上手ですね」

小野寺は、表情を変えなかった。

「本人確認をさせてください」

ヴェーバーは、身分証明書を差し出した。

小野寺は内容を確認した。

「所持品の検査にご協力いただけますか」

「構いません」

ヴェーバーは、鞄を開いた。

中には衣類と書類、そして小型の電子機器が入っていた。

小野寺は、その機器を見た。

「これは?」

「未来日本のものです」

「どこで入手しましたか」

ヴェーバーは、しばらく黙った。

「上海です」

「誰から?」

「仲介人を通じて」

小野寺は、ヴェーバーを見た。

「佐伯和彦という名前に、心当たりはありますか」

ヴェーバーの表情が変わった。

「あります」

「その人物は、上海で殺害されています」

「知っています」

「あなたは、事件に関与しましたか」

ヴェーバーは首を振った。

「殺害には関与していません」

小野寺は、しばらく彼を見つめた。

「詳しい話は、後ほど聞かせていただきます」

ヴェーバーは頷いた。

「そのために来ました」

小野寺は、電子機器を保管用の袋へ入れた。

「こちらは、証拠品としてお預かりします」

ヴェーバーは、少し不安そうだった。

「中の情報は、どうなるのですか」

「調査します」

「すべてを公開するのですか」

小野寺は首を振った。

「それは、私が決めることではありません」

ヴェーバーは、静かに頷いた。

港の外には、現代の自動車が並んでいた。

彼は、その光景を見つめた。

上海から船で来たばかりの彼にとって、未来日本の街は奇妙な場所だった。

昭和十七年の世界に、八十五年先の都市が存在している。

ヴェーバーは、小野寺へ尋ねた。

「ここは、本当に一九四二年なのですか」

小野寺は、少し考えた。

「私たちの暦では、二〇二七年です」

ヴェーバーは、苦笑した。

「不思議な話ですね」

「私たちも、まだ慣れていません」

小野寺は、車の扉を開けた。

「どうぞ」

ヴェーバーは車へ乗り込んだ。

そのとき、彼は小さな声で言った。

「私は、ドイツを裏切りに来たわけではありません」

小野寺は、運転席へ向かいながら答えた。

「それは、これからお聞きします」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。