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昭和十六年の日本国  作者: 秋雲 榛名


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十六 京都の春


 四月十八日、京都。


 榊原直人は、京都宣言に関する各国の反応をまとめた資料を読んでいた。

米国は、核兵器の危険性に関する情報交換を歓迎していた。しかし、軍事研究の全面的な禁止については慎重な立場を取っている。

英国も同様だった。

中国は、原子力の平和利用と核兵器の拡散防止に賛成する一方、日本軍の中国からの撤退を優先課題としていた。

ソ連は、未来日本が核技術を独占しようとしているのではないかと疑っていた。

ドイツは、京都宣言に強く反発していた。

榊原は、資料を閉じた。

宣言を出しただけで、世界が変わるわけではない。

各国には、それぞれの利益がある。

それでも、何もしないよりはよかった。

その日の午後、榊原は東條英機と短い会談を行った。

「関東軍の研究施設は、封鎖されたそうですね」

榊原が尋ねた。

東條は頷いた。

「はい。ただし、資料の一部が行方不明になっています」

「回収は続けられるのですね」

「もちろんです」

東條は、少し疲れた顔をしていた。

「軍の統制を取り戻すことが、これほど難しいとは思いませんでした」

榊原は、静かに答えた。

「組織は、一度独断を許すと、それが慣習になることがあります」

東條は頷いた。

「そのとおりです」

しばらく沈黙があった。

東條が口を開いた。

「榊原総理。未来日本では、軍は政府の命令に従うのですか」

「はい。自衛隊は、文民統制の下にあります」

「文民統制」

東條は、その言葉を繰り返した。

「政治家が、軍を統制するということですな」

「そうです」

東條は、少し考えた。

「帝国にも、そのような仕組みが必要なのかもしれません」

榊原は、すぐには答えなかった。

昭和日本の政治制度を変えることは、簡単ではない。軍部、官僚、議会、宮中。それぞれの権限と利害が複雑に絡み合っている。

しかし、東條がその問題を口にしたこと自体が、大きな変化だった。

榊原は、静かに言った。

「必要なら、制度についての資料を提供します」

東條は頷いた。

「検討しましょう」

会談が終わると、榊原は庭へ出た。

桜の花は、すでに散り始めていた。石畳の上に薄い花びらが積もり、風が吹くたびに舞い上がった。

未来日本が昭和十七年へ現れてから、四か月余りが過ぎていた。

真珠湾攻撃は中止された。

米国との戦争は回避された。

中国との停戦協議が始まった。

核兵器の危険性について、国際的な議論も始まった。

しかし、世界が平和になったわけではない。

欧州では戦争が続いている。

中国でも、まだ戦闘が起きている。

未来日本の国内では、燃料と食糧の不足が深刻になっている。

そして、未来の軍事技術を求める者たちは、今も活動を続けている。

榊原は、散りかけた桜を見上げた。

そのとき、秘書官が近づいてきた。

「総理。東京から緊急連絡です」

榊原は振り返った。

「何ですか」

「ドイツ政府から、正式な外交文書が届きました」

「内容は」

秘書官は、少し躊躇した。

「未来日本と昭和日本に対して、軍事技術協力に関する回答期限を設けるというものです」

榊原の表情が変わった。

「期限は」

「四月末です」

榊原は、しばらく黙っていた。

ドイツは、未来日本の技術を求めている。

そして、その要求が受け入れられなければ、何らかの行動を起こす可能性がある。

榊原は、秘書官へ言った。

「東京へ戻ります」

「承知しました」

榊原は、もう一度庭を見た。

春の風が吹き、桜の花びらが舞い上がった。

昭和十七年の春。

京都宣言によって、世界は核兵器の危険性を知った。

しかし、その知識が世界を救うかどうかは、まだ分からなかった。

そして、遠く離れたベルリンでは、アドルフ・ヒトラーが二つの日本に対する次の方針を考え始めていた。

ちょび髭の今後の動きに乞うご期待w

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