十四 満洲の銃声
四月十三日、満洲北部。
真壁宗一郎は、関東軍の監察部隊とともに、八咫烏計画の秘密施設へ向かっていた。
同行する将校は、全員が東京からの正式な命令書を携えていた。任務は研究施設の調査と、違法な研究活動の停止だった。
しかし、施設へ近づくにつれて、真壁は不安を感じ始めた。
道路には軍用車両が停まり、兵士たちが警備に立っている。
監察部隊の先頭車両が停止した。
若い将校が報告した。
「大佐殿。施設側が通行を拒否しております」
真壁は車を降りた。
冷たい風が吹いていた。
施設の入口には、武装した兵士たちが立っていた。
真壁は、責任者へ声をかけた。
「私は、参謀本部の真壁大佐だ。東京からの命令により、施設の調査を行う」
兵士たちは、互いに顔を見合わせた。
その中の一人が答えた。
「野村大佐殿の許可が必要であります」
「野村大佐の許可は必要ない」
真壁は、命令書を示した。
「これは、政府と陸軍中央の命令だ」
兵士は、困った顔をした。
そのとき、施設の奥から野村清隆が現れた。
「真壁大佐」
野村は、落ち着いた声で言った。
「遠路、ご苦労さまです」
「野村大佐。研究施設の調査を行う」
「承知しております」
「では、通してもらおう」
野村は、少し笑った。
「その前に、確認したいことがあります」
「何だ」
「この研究を停止することが、本当に帝国のためになるとお考えですか」
真壁は、野村を見た。
「それを判断するのは、君ではない」
野村の表情が変わった。
「帝国の将来を守るために、我々は研究を進めています」
「政府の命令に背いてか」
「東京の政治家たちは、未来日本の言いなりになっている」
真壁は、低い声で答えた。
「言葉を慎め」
野村は、黙らなかった。
「未来日本は、自分たちの技術を独占し、帝国の軍事力を制限しようとしている」
「そのような事実はない」
「では、なぜ核兵器の研究を止めさせるのです」
真壁は、しばらく考えた。
「都市を破壊する兵器を、軍の独断で開発することは認められん」
野村は、真壁を睨んだ。
「それでは、帝国は滅びます」
「帝国を滅ぼすのは、兵器を持たないことだけではない」
真壁は、静かに続けた。
「命令を無視し、国家を私物化する軍人もまた、帝国を危うくする」
野村は、しばらく黙っていた。
そのとき、施設の奥から銃声が響いた。
真壁は、反射的に振り返った。
兵士たちが騒ぎ始めた。
「何事だ!」
野村が叫んだ。
続いて、二発目の銃声が聞こえた。
真壁は、同行していた将校へ命じた。
「全員、武器を下ろさせろ! 撃つな!」
しかし、施設の中では混乱が広がっていた。
研究者たちが建物から飛び出し、兵士が怒鳴り合っている。
真壁は、野村を見た。
「これが、君の守ろうとしている帝国か」
野村は、何も答えなかった。




