十二 東條と榊原
四月五日、京都。
榊原直人と東條英機は、非公式の会談を行っていた。
会談場所は、京都市内の迎賓施設だった。窓の外には桜が咲き、庭では職員が落ち葉を掃いていた。
東條は、京都宣言の資料を机に置いた。
「榊原総理。帝国政府としても、核兵器の危険性は理解しております」
榊原は頷いた。
「ありがとうございます」
「しかし、軍の内部には反発があります」
「八咫烏計画の件ですね」
東條は、少し苦い顔をした。
「そのとおりです」
榊原は、慎重に尋ねた。
「計画の停止は、進んでいますか」
「一部では進んでおります。しかし、関東軍の将校が独断で研究を続けている可能性があります」
榊原は、しばらく考えた。
「昭和日本政府として、対応されるのですね」
「もちろんです」
東條は、はっきり答えた。
「帝国の軍隊が政府の命令に従わないことは、認められません」
榊原は頷いた。
「必要な情報があれば、協力します」
東條は、榊原を見た。
「ただし、未来日本の軍隊が満洲へ入ることは認められません」
「承知しています」
榊原は、静かに答えた。
「私たちも、昭和日本の主権を尊重します」
東條は、少し表情を緩めた。
「それを聞いて安心しました」
しばらく沈黙があった。
東條が口を開いた。
「榊原総理」
「はい」
「貴方方の歴史では、私は戦争犯罪人として処刑されたそうですな」
榊原は、すぐには答えられなかった。
「はい」
東條は、窓の外を見た。
「不思議なものです」
榊原は黙っていた。
「自分がどのように死ぬかを知ることになるとは、思いませんでした」
東條は、少し笑った。
「しかし、未来を知ったからといって、過去の責任が消えるわけではない」
榊原は、静かに頷いた。
「そのとおりだと思います」
東條は、榊原を見た。
「私は、帝国のために何をすべきなのか、考え直しています」
榊原は、しばらく考えた。
「私も同じです」
「貴方も?」
「はい」
榊原は、窓の外の桜を見た。
「未来日本の国民を守るために、昭和日本との協力が必要です。しかし、その協力が新たな戦争を生むことになれば、意味がありません」
東條は、静かに頷いた。
「難しい時代ですな」
「ええ」
二人は、しばらく庭を眺めていた。
同じ日本語を話し、同じ国の名を持ちながら、まったく異なる時代を生きてきた二人だった。




