十 野村清隆の反発
三月二十八日、満洲北部。
野村清隆大佐は、京都宣言に関する報告書を読んでいた。
机の上には、未来日本の新聞記事を翻訳した資料が置かれている。
核兵器の開発と拡散を抑制する。
原子力の平和利用を進める。
国際的な協議を継続する。
野村は、資料を机へ投げた。
「馬鹿げている」
部下が顔を上げた。
「大佐殿」
「未来日本は、自分たちだけが未来の知識を持っている。それで他国には兵器を作るなと言うのか」
部下は黙っていた。
「米国も英国も、いずれ核兵器を求めるだろう。そのとき、帝国だけが研究をやめていたらどうなる」
野村は、窓の外を見た。
施設の周囲には雪が残っていた。兵士たちが警備に立ち、研究者たちは建物の中で作業を続けている。
しかし、研究は思うように進んでいなかった。
必要な材料が不足し、設備も十分ではない。未来日本の資料を読んでも、昭和十七年の技術では再現できない部分が多かった。
それでも、野村は計画を中止するつもりはなかった。
「研究を続けろ」
彼は命じた。
「東京から新たな命令が来ても、必要な資料は守れ」
部下は、少し躊躇した。
「大佐殿。関東軍司令部からも、計画の説明を求められております」
「説明はする」
「すべてを、ですか」
野村は、部下を見た。
「必要な範囲だけだ」
部下は、頭を下げた。
野村は、机の上の地図を見た。
満洲北部。
ソ連との国境。
広大な森林と雪原。
ここなら、東京の政治家たちの目を避けて研究を進められる。
しかし、彼は気づいていなかった。
研究施設の存在は、すでに未来日本と昭和日本の双方に知られ始めているということに・・・




