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昭和十六年の日本国  作者: 秋雲 榛名


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七 京都へ届いた機密文書


 三月十八日、京都。


 榊原直人は、上海で起きた銃撃事件の報告を受けていた。

「ヴェーバーは、現在も行方不明です」

外務省の担当者が説明した。

「現地の協力者が移動を支援した可能性がありますが、確認できていません」

榊原は、資料を見た。

「電子機器は?」

「本人が所持しているとみられます」

「ドイツ側は、どう動いていますか」

「上海の関係者が捜索を進めています」

榊原は、しばらく考えた。

「佐伯和彦さんの殺害事件との関係は」

「まだ不明です」

榊原は、資料を閉じた。

未来日本の通信関係者が上海で殺され、その記憶媒体が外国の情報関係者へ渡った。

その情報が、今度はドイツ政府を動かしている。

一人の人間が持ち出した小さな機械が、世界の軍事と外交に影響を与え始めていた。

榊原は、黒田統合幕僚長を見た。

「八咫烏計画について、新しい情報はありますか」

「はい」

黒田は、別の資料を差し出した。

「満洲北部で、研究施設の移転が確認された可能性があります」

「昭和日本政府は?」

「調査を進めています。ただし、関東軍の一部が協力を拒んでいるようです」

榊原は、ため息をついた。

「東條首相も、難しい立場ですね」

「はい」

黒田は続けた。

「軍の内部に、政府の統制を受けない勢力が存在するということです」

榊原は、窓の外を見た。

京都の街には、春の気配が漂い始めていた。観光客の姿は以前より少ないものの、寺社の周辺には人々の生活が続いている。

その京都で、今度は原子力に関する国際会議を開く案が浮上していた。

未来日本が核兵器の危険性を説明し、昭和日本、中国、米国などに対して軍事利用の抑制を呼びかける。

しかし、そのような宣言にどれほどの意味があるのか。

榊原自身にも、確信はなかった。

「総理」

外務大臣が声をかけた。

「京都宣言の草案がまとまりました」

榊原は、資料を受け取った。

そこには、未来日本政府が提案する国際原子力協力の基本方針が記されていた。

核兵器の開発と拡散を抑制すること。

原子力の平和利用を促進すること。

研究情報の管理について国際的な協議を行うこと。

そして、各国の主権を尊重しながら、危険な軍事技術の拡散を防ぐこと。

榊原は、ゆっくり読み進めた。

「これで、各国が納得するでしょうか」

外務大臣は、慎重に答えた。

「難しいと思います」

「でしょうね」

「特に、ドイツとソ連は反発する可能性があります」

榊原は、草案を閉じた。

「それでも、何もしないわけにはいきません」

外務大臣は頷いた。

「はい」

榊原は、静かに言った。

「京都で、世界へ向けて発表しましょう」

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