四 京都の会議室
三月十日、京都。
旧市街にある迎賓施設の会議室には、三つの国の代表団が集まっていた。
未来日本の榊原直人首相。
昭和日本の東條英機首相。
中国国民政府の代表、宋子文。
そして、中国共産党側の連絡代表として周恩来が出席していた。
京都での停戦協議は、二月から続いていた。前月に成立した予備協定によって、一部戦線では大規模な攻勢が停止されている。しかし、すべての地域で戦闘が止まったわけではない。
現地の部隊が命令に従わないこともあれば、互いに相手が停戦違反をしたと非難することもあった。
宋子文は、机の上の資料を指した。
「日本軍の撤退について、具体的な日程を示していただきたい」
東條は、慎重に答えた。
「帝国政府としても、戦闘の拡大を望んではおりません。しかし、部隊の撤収には準備が必要です」
「準備という言葉は、これまで何度も聞きました」
宋子文の声は穏やかだったが、表情は厳しかった。
「中国の都市には、今も日本軍が駐留しています。住民は、その間も占領下で暮らしているのです」
東條は黙った。
榊原は、両者を見た。
「段階的な撤退計画を作ることはできませんか」
宋子文が答えた。
「日程と対象地域が明確であれば、協議の余地はあります」
東條は、少し考えた。
「現地の治安をどう維持するかという問題がある」
周恩来が口を開いた。
「治安の問題は、中国人自身が解決すべきです」
東條は、周恩来を見た。
「貴方方の部隊が、停戦を守る保証はあるのですか」
「同じ質問を、日本軍にもお返しします」
会議室の空気が張り詰めた。
榊原は、手元の資料を閉じた。
「互いに信用できないことは、理解しています」
宋子文が榊原を見た。
「だからこそ、保証が必要なのです」
「はい」
榊原は頷いた。
「未来日本が監視団を派遣する案を検討しています。ただし、昭和日本と中国双方の同意が必要です」
東條は、少し眉を寄せた。
「未来日本の軍人が、中国へ入るということか」
「武装した部隊ではありません。停戦状況を確認するための監視要員です」
周恩来は、しばらく考えた。
「監視団の報告が公開されるなら、検討できます」
宋子文も頷いた。
「中国側の参加も必要です」
東條は、すぐには答えなかった。
会議は昼過ぎまで続いた。
休憩時間、榊原は廊下で宋子文と話した。
「中国側には、未来日本に対する不信感もあるでしょう」
榊原が言った。
宋子文は、少し笑った。
「当然です」
「そうでしょうね」
「あなた方は、未来の日本だと言う。しかし、我々にとっては、日本がもう一つ現れただけとも言えます」
榊原は、何も言えなかった。
宋子文は続けた。
「あなた方の国が民主主義国家になったことは理解しています。しかし、それで過去の占領が消えるわけではありません」
「はい」
「中国の人々が求めているのは、未来の説明ではありません。今、目の前にいる日本軍が撤退することです」
榊原は、深く頷いた。
「そのために、できることをします」
宋子文は、榊原を見た。
「言葉だけで終わらないことを願っています」
会議室の外では、京都の庭に梅の花が咲き始めていた。




