十一 雪原の施設
二月二十六日、満洲北部。
雪原の中を軍用トラックが走っていた。荷台には木箱が積まれている。中には研究資料と実験器具が収められていた。八咫烏計画の一部だった。
東京からの命令により、研究は停止されたことになっている。しかし、野村清隆大佐の指示で、主要な資料は別の施設へ移送されていた。
その施設は、地図に記されていない。周囲には広大な森林と雪原が広がっている。軍の関係者以外、立ち入ることはできなかった。
トラックが施設へ到着すると、兵士たちが木箱を降ろし始めた。
野村は、建物の入口に立っていた。
部下が報告した。
「大佐殿。資料の移送が完了しました」
「ご苦労」
「片岡少佐には、どう説明しますか」
野村は、少し考えた。
「必要ない」
「しかし、研究責任者であります」
「研究責任者は、変更する」
部下は、顔を上げた。
「変更ですか」
「そうだ」
野村は建物の中へ入った。そこには、数人の技術者が待っていた。彼らは、未来日本の資料を手にしていた。
野村は机の上の地図を見た。
満洲、ソ連との国境、そして広大な大地。ここなら、東京の目を避けて研究を進められる。
野村は、静かに言った。
「八咫烏計画を、再開する」
技術者たちは黙って頷いた。しかし、その中の一人は不安そうな顔をしていた。
未来の兵器。都市を破壊する力。その研究を進めることが何を意味するのか、彼にはまだ理解できなかった。
野村は資料を開いた。
「時間がない。ドイツも、米国も、ソ連も、未来の技術を求めている」
野村は技術者たちを見た。
「我々が先に進まねばならん」
建物の外では、雪が降り続いていた。




