九 東條英機の決断
二月十八日、昭和日本・東京。
東條英機は、真壁宗一郎からの報告を受けていた。机の上には、八咫烏計画に関する資料が置かれている。
東條は、長い時間をかけて読み進めた。読み終えると、眼鏡を外した。
「関東軍が、ここまで進めていたとはな」
真壁は黙っていた。
「政府の正式な承認を受けずに、原子力兵器の研究を進めている。これは、看過できん」
真壁は頷いた。
「はい」
東條は、しばらく考えた。
「しかし、研究そのものを禁止すべきか」
真壁は、慎重に答えた。
「原子力研究には、平和利用の可能性もあります」
「それは聞いている」
「ただし、軍事利用については、厳格な統制が必要と考えます」
東條は、真壁を見た。
「未来日本は、どう考えている」
「核兵器に関する情報提供を拒否する方針です」
「当然だろうな」
東條は、少し笑った。
「彼らは、核兵器が何をもたらすか知っている」
真壁は頷いた。
「はい」
東條は、窓の外を見た。
昭和十七年の東京。まだ空襲で焼けていない街。未来日本の歴史では、この街は数年後に焼け野原になる。しかし、今は違う。戦争を回避する道が、わずかながら見え始めている。
東條は、静かに言った。
「八咫烏計画を、いったん停止させる」
真壁は、顔を上げた。
「総理」
「研究資料を回収し、関係者から事情を聴取する。原子力研究そのものについては、政府の管理下で改めて検討する」
真壁は、深く頭を下げた。
「承知しました」
東條は、少し間を置いた。
「ただし、関東軍が素直に従うとは限らん」
「はい」
「お前に、現地の調査を命じる」
真壁は背筋を伸ばした。
「はっ」
東條は、真壁を見た。
「危険な仕事になるかもしれん」
「承知しております」
東條は、しばらく黙っていた。
「真壁」
「はい」
「帝国の未来を、軍の独断に任せるわけにはいかん」
真壁は、深く頷いた。




