六 真壁宗一郎の疑念
二月十一日、昭和日本・東京。
真壁宗一郎は、参謀本部で関東軍に関する報告書を読んでいた。そこには、原子力研究に関する予備的な調査が始まっていることが記されていた。
計画の詳細は不明。関係者は少数。研究施設の場所も明確には記されていない。
真壁は眉を寄せた。
帝国陸軍の内部で、政府や参謀本部の統制を受けずに研究計画が進められている。その可能性があるだけでも、重大な問題だった。
真壁は部下へ尋ねた。
「この計画の責任者は誰だ」
「現在、確認中であります」
「関東軍司令部のどの部署が関与している」
「それも、まだ」
真壁は、資料を机へ置いた。
「分からんことばかりだな」
部下は頭を下げた。
「申し訳ありません」
真壁は、少し考えた。
「片岡信彦という技術将校を知っているか」
「はい。陸軍技術本部の少佐であります」
「現在、満洲にいるそうだな」
「そのようです」
「彼について調べてくれ」
「はっ」
部下が退室すると、真壁は椅子に深く腰を下ろした。
未来日本の資料には、核兵器に関する歴史が記されていた。広島、長崎、都市の破壊、放射線による被害。そして、戦後の核軍拡競争。
真壁は、その資料を読んだとき、理解できなかった。たった一発の爆弾で都市が壊滅する。それほどの兵器を、人間が作り出す。そして、実際に使用する。
そのような未来が存在した。
真壁は、机の引き出しから家族の写真を取り出した。妻と息子の宗太郎。息子は十二歳になっていた。最近、新聞記者になりたいと言い始めている。
未来日本の資料によれば、宗太郎は戦後に新聞記者になるらしい。しかし、その未来が今も存在するかどうかは分からない。
真壁は写真を見つめた。
もし核兵器が昭和日本で開発されたら。もしドイツがそれを手に入れたら。もし世界が、未来日本の歴史よりも早く核戦争へ向かったら。
息子は、どんな時代を生きることになるのだろう。
真壁は、写真を引き出しへ戻した。
そして、関東軍への出張を願い出る文書を書き始めた。




