↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
【受賞・書籍化】処刑された聖女ですが、皇女に転生してお兄様たちに溺愛されています  作者: 朝森さな


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
69/70

第69話 処刑された聖女ですが、皇女に転生してお兄様たちに溺愛されています

「ジル。大切な話がある」


 真剣な目で見つめられて、アンジェラはドキッとした。


「君との契約婚約を終わりにしたい」


 高鳴った胸が、急速に萎《しぼ》んだ。


(……婚約を……終わりに……)


 契約は解消する。偽りの婚約はもう終わる。もうリオネルの婚約者を名乗ることはできない。


 ただ元の関係に戻るだけなのに、身が裂かれるほど辛い。思わず泣きそうになって、アンジェラはぎゅっと唇を結んだ。


「そして、本物の誓いをしたい」


 瞠《みひら》いた紫の眼を、アイスブルーの眼が射貫く。


「……本物の……誓い……」


「ああ」


 震えるアンジェラのきゃしゃな手を、たくましい手が包み込んだ。


 出会った時よりもずっと大きくなった、大人の男の手だ。


「……ジルと過ごした記憶が、ずっと私の支えだった」


 ジュリエットが生きていると信じるだけで、リオネルはどれほど力づけられたかわからない。


「君を思うだけで勇気が湧いた。世界のどこかに生まれたはずの君の存在だけが希望だった……」


 どんな孤独も、どんな困難も、彼女を想えば耐え忍べた。


 いつの日か生まれ変わった彼女と出会えるかもしれない。その希望を胸にリオネルは生きてきたのだ。


 だが──もう……無理だ。


 もう、想うだけでは足りない。


 自制がきかない。気持ちが抑えられない。秘め続けた恋が氷解して、雪融(ど)けの水のようにあふれる。


「昔も今も、変わらず君だけを愛している。ジル、どうか私と結婚してほしい」


 嘘のない、まっすぐな告白。


 彼の一途な想いを痛いほど感じて、アンジェラの目に雫が浮かんだ。


「私でいいの……?」


「君がいい。君でなくては嫌だ」


 きっぱりと言って、リオネルはアンジェラの涙を指で拭った。


「ジル、好きだ。ずっと好きだった……」


──リルがずっと自分を想っていてくれた。


 その事実が、これまで感じたことがないほど大きな喜びをアンジェラに与えた。


「……うれしい……」


 彼に愛されていることがこんなにも嬉しい。嬉しくて、幸せで、心がいっぱいに満たされる。

 

「リル、私もあなたのことが好き」


 アンジェラが倒れるように身を任せると、リオネルは宝物を抱くように優しく受け止めてくれた。


「ずっとリルと一緒にいたい。もう離れたくない……!」


 一度は死に別れたからこそ、深い実感のこもった「離れたくない」だった。


 どちらからともなく、二人は顔を寄せた。


 そっとふれあうだけの、優しいキスだった。


 静かな口づけなのに、心臓の音は大きい。お互いの鼓動が重なって、余計に大きく脈打っている。


「……でも、リル。本物の婚約をするということは……」


「ああ」


 リオネルは権力に興味などなかった。地位も名誉も欲したことはなかった。


 だが帝国の皇女との結婚を望むのなら、話は別だ。


「君と結ばれるためなら、何だってしてみせる」


 ジルと共に生きられるのなら、玉座にも手を伸ばそう。


 彼女を妻と呼ぶためなら、至尊の冠だろうと担ってみせよう。


「そもそもこれ以上ナタンに王位を任せてはおけない。簒奪《さんだつ》者と呼ばれようと、あの男から実権を取り上げるつもりだ」


 ナタンが即位してからの年月は、コライユ王国にとって最悪と言っていい暗黒期だった。


 そこにきて今、ナタンがかつて本物の聖女を冤罪で処刑し、この国を長く危機にさらしたことが広く明らかになる。もはや現政権を支持する民は皆無だろう。


 たとえリオネルが何もしなくとも、民はナタンが玉座に座り続けることを望まないはずだ。


 ナタンが地位を剥奪されれば、空白の王位を埋めるのは一人しかいない。


 ロシェル公リオネルが国王として戴冠し、皇女アンジェラが王妃の座に就く。


 それがこの国の、再生の第一歩となるのだ。


「無論、この傾いた国を立て直すのは容易ではない。ナタンの元で甘い汁を吸っていた者たちは往生際悪く抵抗するだろうし、国政はロシェル領の統治とは桁《けた》が違うこともわかっている」


 荒れた国内を安寧に導くのも、海千山千のしたたかな諸外国と渡り合っていくのも、並大抵の苦労では済まないだろう。


 歪んだ王家の浄化。腐敗した神殿の一掃。生活苦にあえぐ国民の救済。


 なすべきことは余りにも多く、歩むべき道は余りにも険しい。


「どれも一筋縄ではいかない。茨の道だが……」


「そうね。でも……」


 アンジェラはふわりと笑んだ。


「「茨とは、薔薇のことだから」」


 二人の声が重なり、二つの手も重なる。


「あなたならできるわ、リル。私、薔薇の花が好きよ」


 たとえ棘に傷つこうと、血を流そうと、薔薇の咲く道は美しいから。


「ああ。君と歩めるのなら……何も恐れるものはない」


 アンジェラは幸せそうに、つないだ手を握り返した。


「リル、大好き。あなたの歩く茨の道を、私も一緒に歩きたい」


 目を見合わせた顔が、もう一度そっと近づいていく。


 離れていた時間を取り戻すかのように、リオネルは可憐な唇を夢中で貪《むさぼ》った。


「帝国に正式な婚約の許しを得なくてはならないな」


 愛おしそうにアンジェラを抱きしめながら、リオネルがささやく。


「そ……そうね……」


 アンジェラの顔が急速に曇った。


 リオネルの腕の中にすっぽりと包まれながら、困ったように視線を泳がせる。


(……う……うーん……)


 母はまともに話が通じるだろうし、父はむしろアンジェラが嫁げば安堵するかもしれない。問題は三人の兄たちだ。


"契約婚約を解消して、本物の婚約をしたい"


 そう告げたなら、兄たちはこぞって反対するだろう。大反対するだろう。


 三人で口をそろえて「「「絶対にダメだ!」」」と言い切るのが目に見えている。


「アンジェラは嫁になどやらん!」と端正な顔で断言するミッシェルと、「アンジェラが欲しければ私たちを倒していくのですね」と綺麗な顔で言い切るラファエルと、「アンジェラ? 結婚なんてしないでずっと僕たちと一緒に暮らすよね?」と可愛い顔で言質を取りにくるガブリエルが見える。


 正直どうやって攻略したらいいのか見当もつかない。


 絶対に大変だし、揉めるし、大変だし、難攻不落だし、本当に大変だろう。


 拗《す》ねたり泣いたり駄々をこねたり、全力で抵抗する兄たちの姿が目に浮かぶ。けれど、きっと──。


「大丈夫。最後にはきっとみんな私の意志を尊重してくれるわ」


 アンジェラは満開の薔薇のように笑んだ。


「だって私、お兄様たちに溺愛されているんだもの」






【完】

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。