書籍発売記念SS 「リオネルvs三人の兄」
サフィール帝国の皇宮では三人の皇子たちが手薬煉を引いて、リオネル・ド・ランスフォールの到着を待ちわびていた。
リオネルはコライユ王国の王族だ。帝国の皇女アンジェラに求婚中の身でもある。
溺愛してやまない末っ子の妹をさらっていく(かもしれない)不届き者の来国となれば、皇子たちの警戒心と敵愾心は最高潮に達していた。
皇子たちがただ座って腕を組んでいるだけで、ゴゴゴゴと大地が怒りに鳴る轟音が聞こえてくるかのようだった。
皇宮に仕える者たちも命じられるままに、非常時用の厳戒態勢を敷き、空気を読んでなりゆきを見守っていた。
「我が国へようこそ、ロシェル公」
「遠路はるばるよくいらっしゃいました」
「海が荒れて船が転覆してそのまま沈めばよかったのに」
最初が第一皇子ミッシェル、二番目が第二皇子ラファエル、最後の不穏な発言が第三者皇子ガブリエル。
ガブリエルは隠す気のない悪意を遠慮なく向けつつ「いっけなーい、殺意殺意♡」とばかりに、可愛い顔で微笑んでいる。
リオネルは動じることなく、落ち着き払った様子で謁見の口上を述べた。
彼の堂々たる体躯を試すように上から下まで見つめながら、皇子たちはふと首をかしげる。
「……ロシェル公は隻眼ではなかったか?」
「た、たまたま良い治療を受けられたのです!」
ミッシェルが訝しそうに放った疑問に、あわてて答えたのはアンジェラだった。
リオネルは以前にも皇子たちと面識があるが、その時は左の目に黒い眼帯をしていた。
しかし今は眼帯は見当たらない。右目と同じアイスブルーの色をした左目が、強い光を宿して燦然と輝いている。
「左目も回復したということですか? 傷一つ残っていないように見えますが……コライユ王国の医学はそれほど進んでいるのですか?」
「ええ……はい……そう……だと思います……」
ラファエルが興味深そうに尋ねるが、アンジェラはあたふたと焦ることしかできない。
(まさか私が癒したなんて、お兄様たちには絶対に言えないわ……!)
リオネルの欠けた左目を治したのは、アンジェラの持つ治癒の力だった。
この力を持っていること自体、家族には伏せているので、冷や汗をかきつつ、あいまいにごまかしておく。
幸い、兄たちはリオネルの目が快復したことにはそれほど興味がないようだった。それよりも本題の方が重要らしく、再びゴゴゴゴという不穏な地響きを震わせている。
「ロシェル公。まずはアンジェラの可愛い点を挙げて、詳しく述べてもらおうか」
「当然ですが、一つや二つではありませんよ。百ほどお願いします」
「詰まったり閊えたり言いよどんだ時点で失格だからね」
面接官のように横並びに座ったミッシェルとラファエルとガブリエルが、立て続けにそう命じる。
「お兄様たち! いったい何を言っているんですかっ!?」
アンジェラは思わず身を乗り出した。
可愛い点を百だなんて、そんなの無理難題すぎる!
「本当です。まったく何を言っておられるのか……」
リオネルは深々とため息をついた。
「たかが百で足りるとお思いですか? 三倍は軽いのですが」
「リル!?」
有限実行と言うべきか。謎のプレゼン大会は延々と続いた。
リオネルのよどみない独壇場は終わりが見えない。
アンジェラはもう羞恥心で消えそうになっているし、プレゼンを命じた兄たちすら胸焼けのあまり、砂糖を大量に吐いて倒れそうになっている。
「……な……なかなかやるではないか……!」
「……ええ……ロシェル公を見くびっていましたよ……!」
「……アンジェラへの愛だけは認めざるを得ないかな……。もちろん二人の関係は断じて認めないけどね!」
三人の皇子は三人とも、断固として首を横に振った。
「いくらロシェル公の想いが本物だろうが、アンジェラはやれん!」
「私たちはアンジェラの兄。アンジェラは生まれた時から私たちの妹なのです!」
「僕たちよりもアンジェラと長い付き合いの男なんて、世界中探してもどこにもいないんだからね!」
「あいにくですが、皇子殿下がた」
リオネルは毅然と進み出た。
「私が最古参です」
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