↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
【受賞・書籍化】処刑された聖女ですが、皇女に転生してお兄様たちに溺愛されています  作者: 朝森さな


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
57/69

第57話 隠し通路

 護衛騎士たちはまだ目を覚ます気配はない。


 すやすや眠り込んでいる彼らを横目に、リオネルとアンジェラはこそこそと話し合った。


「リル、十五年前のことだけれど、私は前の王妃様を殺したりしていないの。本当よ」


「当たり前だ。ジルがそんなことをするはずない」


 即座に答えてくれるリオネルの言葉が、アンジェラには何よりも嬉しい。


 前世で誰にも信じてもらえず断罪された時も、リオネルだけがジュリエットを信じてくれたことを思い出して目頭が熱くなった。


「私、王妃様が亡くなった事件の真相を知りたい。あの時本当はいったい何があったのか、真実を明らかにしたいの」


 ジュリエットが無実である以上、真犯人は他にいるはずだ。


 アンジェラは閉じられた禁室の扉に、再び視線をやった。


 あの闇色の本の中にはもしかすると、直接手を下さずとも人を殺せるような禁断の呪法もあるのかもしれない。


 しかし黒鎖につながれた魔導書《グリモワール》の中で、封印を解かれた形跡があるのは一冊だけだった。リオネルが使ったものだ。


 だから犯人が誰であるにしろ、禁術を用いたとは考えにくい。王妃を殺めた手段は、あくまでも現実的な方法であるはずだ。


「王妃様はこの国の女性の頂点だもの。下々の者が簡単に近づける方じゃないわ」


 王妃に接することのできた人間といえば、王族や高位貴族たち。


 身の回りの世話をする侍従や侍女ら使用人も、しっかりとした身辺調査の上に雇われた身元の確かな人間ばかりだった。


 唯一の例外が聖女ジュリエットだ。王妃は自身が名家の出身であるため、貧しい孤児院育ちのジュリエットを疎んでいた。


「……だからあの日、急に王妃様を治せと命じられて驚いたの。王妃様は私を嫌っておられたから……」


 アンジェラは記憶の海に沈んだ。


 十五年前に見た光景を、聞いた言葉を、ゆっくりと正確に思い出していく。


『──聖女ジュリエット!』


 静寂に満ちた神殿の中、騒々しく踏み込んできたのは、王家に仕える側近たちだった。


 彼らは祭壇に祈りを捧げていたジュリエットに詰め寄り、急いで宮中に参内しろと命じた。


『早くしろ! 王妃様のお召しだ!』


 高圧的に怒鳴られて、ジュリエットは身をすくめた。


『でも……この後は治癒の予定が……』


『庶民への施しなどどうでもよかろう!』


 側近の一人がいらいらと素手を振りあげて、ジュリエットを小突いた。


 そのまま有無を言わさず王宮に連行されたジュリエットは、重たい瘴気に満ちた王妃の病室に押し込まれた。


『……早く治してちょうだい。聖女ならばできるでしょう?』


 王妃は頭が痛むのか眉間を顰《しか》めていた。皮膚はかさつき、手足は小刻みに痙攣《けいれん》して、体に力が入らない様子だったが、黒目がちの瞳はジュリエットを責めるように睨んでいた。


「あの日の王妃様の症状は……頭痛にふらつき、痙攣に倦怠感もあって、ぐったりとし……」


 当時の記憶を振り返りながら、アンジェラははっと顔を上げた。


 不本意そうにジュリエットを睨んだ、王妃の大(・)き(・)な(・)黒(・)目(・)が脳裏に蘇る。


──黒目がちだったのではない。あれは。


「……瞳孔《どうこう》が開いていたんだわ」


 病床とはいえまだ生きていた王妃の、目の瞳孔が開いていた。


──王妃が患っていた病気とは、いったい何だったのだろう?


 ジュリエットが宮中医に病名を尋ねても教えてはもらえなかったが、彼らには何かしらの所見があったはずだ。


「この図書棟に来たいとお願いしたのも、十五年前の事件に関するヒントが何か残されているのではないかと思ったからなの。でも、そう甘くはないわよね……」


 宮中医は王族の体調管理に万全の注意を払っている。王妃が病に臥せれば必ず治療の記録を記したはずだし、死後はきっと検死も行ったはずだ。


 その書類が残っていないか、あわよくば閲覧できないかと期待していたのだが……甘かった


 この図書棟は許可を得た貴族なら立ち入れる。そんな場所に亡くなった王族の検死結果など置くはずもなかった。


「でも大事な書類を破棄してしまうとも思えないの。どこかに残っていないかしら……」


「ある。残っている」


 リオネルは深く首肯した。


「かつて同じことを考えたんだ。ジルは冤罪《えんざい》だ。真犯人は別にいると思い、私なりに調べた」


「リル……」


 冤罪だときっぱり言い切るリオネルに、アンジェラは胸を押さえた。


 同時に、やはり重要文書だけを所蔵する場所が別にあるのだと納得する。


「……私は……入れないわよね?」


 国家機密に相当する文書を納める部屋に、他国の皇族であるアンジェラが入室を許されるはずがない。


 正規の手段で打診すれば、間違いなくナタンの耳に入る。怪しまれて面倒なことになるのは火を見るよりも明らかだ。


「よし……」


 リオネルは涼しい顔で言った。


「黙って忍び込もう」



 ◇◇◇



「ジル、大丈夫か?」


 隘路《あいろ》を閊《つか》えつつ進みながら、リオネルが背後を振り返った。大きな手はアンジェラのきゃしゃな手をしっかりとにぎっている。


 アンジェラは微笑んだ。


「ええ、私は平気」


──忍び込もう、とリオネルが言い出した時は驚いたが、宮殿のあちこちに仕込まれた隠し通路にはさらに面食らった。


 たとえば本棚にダミーの本が一冊あり、その本を奥に押し込むと棚が可動して、階段が現れたこと。


 行き止まりにしか見えない場所だが、壁の一部が扉になっていて、軽く持ち上げるようにして押すと通れたこと。


 回廊に飾られた鏡が、取っ手を発条《ぜんまい》のように回すと内側に開き、この狭い裏道へと続いていたこと。


「すごいわ。こんな道があるなんて知らなかった」


「元々はこの城が敵に攻め込まれた際、王族が脱出できるように作られた通路らしい。設計者がよほど凝り性だったのか、なかなか複雑に巡らされている」


 そういえばリオネルは昔、地下牢に投獄されたジュリエットの元に来てくれたのだった。


 厳重な警備の中、いったいどうやって潜りこんだのか不思議だったが、あの時もこうした隠し通路を利用したのだろう。


 やがて細い道を抜けた先に、明《さや》かな光が見えてきた。


「──ここだ」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。