第六話 会えない時間
七月。
地獄がやって来た。
「期末テスト二週間前だぞー!」
担任の声が教室に響く。
クラス中が悲鳴を上げた。
もちろん私もだ。
そして。
『テスト終わるまでゲーム禁止』
母から通告された。
絶望だった。
『アイト』
『どうした?』
『しばらくログインできない』
『え』
『テスト』
『……そっか』
短い返事。
だけど。
どこか寂しそうだった。
『終わったらまた遊ぼう』
『うん』
『待ってる』
『うん』
それが最後のログインになった。
◇◇◇
一週間後。
「……」
私は教科書を開く。
しかし集中できない。
スマホを見る。
通知はない。
当たり前だ。
ゲームをしていないのだから。
「なんか静かだな……」
思わず呟く。
毎日当たり前にあった時間。
毎日当たり前に話していた相手。
それが急になくなると。
こんなにも寂しいものなのだろうか。
一方その頃。
風原藍斗もまた。
自室の机で問題集を開いていた。
しかし。
視線は何度もスマホへ向かう。
「……」
通知は来ない。
来るはずもない。
立花柚月は勉強中だ。
分かっている。
分かっているのに。
学校で見るだけでは足りない。
ゲームで話したい。
今日あったことを聞きたい。
声は知らない。
顔は毎日見ている。
それなのに。
会えない気がする。
その感情に気付いた瞬間。
藍斗は小さくため息をついた。
「重症だな……」
窓の外には夏の夕暮れ。
茜色に染まる空の向こうで。
彼の胸の奥には。
もうとっくに答えが芽生え始めていた。
――そして二人はまだ知らない。
文化祭が終わった直後。
あの日ログインすることになる世界が。
ただのゲームではなくなることを。




