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貸借対照表の死神(デス・バランスシート) 〜奪われたすべてを、最悪の詐欺(ビジネス)で回収する〜  作者: ネギ玉(仮)
第1章:黄金を産む岩山(ゴールド・ソルティング・オペレーション)

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第2節:不可欠な部品(バイタル・パーツ)

機械が正常に動くためには、適切な部品(パーツ)が欠かせない。

 それも、既存の規格に収まらないほど「高精度」ゆえに弾き出された、異端の部品たちが。


 私はまず、王都の地下深くにある石造りの独房を訪れた。

 そこにいたのは、煤まみれの指先を眺めるニコ(Niko)だ。


 彼は子爵から直々に「魔法ですら開けられない鍵」の製作を命じられ、見事に磁気誘導(じきゆうどう)と複雑な遊星歯車(ゆうせいはぐるま)を組み合わせた工学の結晶を完成させた。


 だが、子爵は完成品を手にするや否や、報酬の支払いを拒むために「これは魔法によるまやかしだ」と彼を詐欺師として投獄したのだ。


「ニコ、その汚された自尊心を、再起動(リブート)したくないか」


 鉄格子越しに声をかけると、彼は力なく笑った。


「僕の計算は完璧だった。でも、この世界の権力者には物理法則(ルール)なんて関係ないんだ」


「奴に教え込もう。重力からは、何者も逃げられないと。……お前が作ったその『開かない鍵』、今度は奴の全財産を閉じ込めるために使うんだ」


 ニコの瞳に、鈍い金属光沢(メタリック)のような光が戻った。


次に向かったのは、絶え間なく続く弔いの鐘が鳴る北の墓領だ。


 ガードナー(Gardner)は、かつての戦友たちが眠る墓石の前に、石像のように佇んでいた。

 子爵が運営する鉱山。

 そこでは換気設備(システム)すら整えられぬまま、男たちが粉塵爆発(ふんじんばくはつ)と落盤の恐怖の中で使い捨てられていた。


ガードナーが何度も進言した安全対策のコストは、すべて子爵の贅沢品へと消えたのだ。


「……暴力に、意味はあるか」


 低く、地鳴りのような声でガードナーが問う。


「感情に任せた暴力は、ただの摩擦熱(まさつねつ)だ。だが、解剖学に基づいた効率的な力は、最小の労力で標的を機能停止(ダウン)させる。お前の戦友を殺したのは、子爵という名の不合理な腫瘍(しゅよう)だ。……それを取り除く、メスになれ」


 ガードナーは何も言わず、ただ、巨大な拳を硬く握りしめた。


教会の広場では、シオン(Shion)が民衆から石を投げつけられていた。


 彼女が気象観測と統計学から導き出した「大干ばつの予測」は、教会の権威を脅かす「不吉な呪い」と断じられた。その背後で糸を引いていたのは、食糧価格の吊り上げを狙う子爵だ。


「この世界の変数には、知性(ロジック)が欠けているわ」


 避難させた彼女に、私は一枚の確率分布図(ヒストグラム)を見せた。


「ならば、我々が新たな変数を書き加えよう。シオン、お前の予測が『正解』として報われる場所を、私が用意する。……子爵の破滅という名の、確定した未来だ」


 彼女は口元の泥を拭い、数理モデルを解くように不敵に微笑んだ。


最後に、私は追っ手から逃れる|エレーナ・フロスト《Elena Frost》を、場を弁えた貴族の別邸(サロン)で回収した。


 彼女は諜報のために高慢な伯爵夫人に化けていたが、子爵の「台本にない傲慢な振る舞い」によってその正体を見破られかけていた。

 子爵は外交上の礼儀作法すら無視し、自分の気分一つで彼女の完璧な演技を台無しにしたのだ。


「あんな三流役者(だいこん)の下で、死ぬのは御免だわ」


 エレーナは扇子を広げ、氷のような瞳で私を見た。


「最高の舞台を用意しよう。ターゲットは子爵。……観客は、奴に踏みにじられたすべての人々だ。お前には『伝説の鑑定士』という、奴を奈落へ誘う主役を演じてもらう」


――再び、リーザのいた宿屋の廃墟。

 夕闇の中、五人の異邦人が集った。皆、この世界の歪な重力に傷つき、誇りを奪われた者たちだ。

 私は彼らの中心に立ち、現代の物理学で用いられる天秤(バランス)の図を地面に描いた。


「一人一人の力では、この世界の重力は動かせない。だが、ここに一つの点を打てば話は別だ」


挿絵(By みてみん)


 私は図の中央を指差した。


「我々は『アルキメデス(Archimedes)』。……現代知識という名の『支点(フルクラム)』を使い、この腐った権力という重力を、根底からひっくり返す」


 ニコがピックを鳴らし、ガードナーが静かに立ち、シオンが計算を開始し、エレーナが仮面を被る。

 この瞬間、ただの被害者たちは、巨大な不条理を解体するための精密機械(メカニズム)へと変貌した。


「さあ、コンサルティングの時間だ。……子爵に、倒産(デフォルト)の恐怖を教えてやろう」

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