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クールな白刃さんはデレで殺す  作者: アオカラ
第三章 死が二人を別つとも
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第78話 ルシッド‐ドリーミング


「父さんはそこら辺のネットカフェにでも行ってくるから、二人はゆっくりお楽しみしたら?」

「「やめてください」」


 懇願した。

 僕も美銀も地面に付ける勢いで頭を下げ、蓮に頼み込んだ。

 もしお願いを断られたらきっと土下座に移行するだろう。それぐらい、真剣なトーンで言う。


 言われた当の本人は、感心したように声を上げる。


「おおー、すごいね。若気の至りに屈しないようにするその心構え、惚れ惚れするよ」

「父さん、本当に冗談抜きで家にいてください。ストッパーの存在が僕らには必要なんです」

「お父様、私からもお願いさせていただきます。お家のお手伝いなどはきちんとしますので、何卒どうか……」


 ほー、とにやにやしながらこちらを見てくる蓮。

 何笑ってるんだよ、こっちは割りと真面目ぞ?


「そんなこと言って、一人暮らししてるあっちのマンションでやることやってるんでしょ?」

「「やってない!」」


 これは本当に嘘ではない。

 僕らは健全な関係だ、まだ。

 精々ディープキスが最上級レベルだ。それ以上はまだやってない。


「まあ二人の熱意は受け取ったよ。けどさすがに美銀さんの寝姿を見るのはまずいしね、来客用の布団もないから和士のベッドで寝てもらってもいい?」

「あ、わかりました」


 一緒にベッド。

 それもそれでやばいよなぁ。

 僕はソファーで寝ようかな……。けどそれだと「疲れが取れないからだめです」って小言を言われそうだし、最悪父さんのベッドに入り込むか……?


 回避する術を考えていたら、美銀が僕の袖をきゅっと掴み、何か訴えるようにうるんだ瞳で上目遣いに見てくる。


 あー、これ殺傷能力が高いって。

 あれだ、「一緒に寝てくれないのですか……?」って訴えてきてる。げぼかわ。


「わ、分かったから……」

「おー、本気で照れてる和士なんて久しぶりに見たよ。ずいぶん絆されてるねえ?」

「父さん、からかいが過ぎるとさすがの僕も怒るよ」

「もう怒ってるよね?」


 からからと笑い、息子をいじめてくる父親。

 うーん……尊敬できる要素を色々持っているのに、ちょいちょい出てくる悪戯心がうざったいんだよなぁ。


「愛されてますね」


 僕らを見てそう言った美銀。

 何を思ってそんな発言に至ったのか問い詰めたいところだ。



 父親を家に足止めすることは成功し、僕らはストッパーを得た安心感でかなり油断していた。

 ベッドで一緒に寝ることになり、美銀の家で寝た時と同じような状況となり、抱きあって眠ることになった。


 そこが問題だったわけではない。

 いや、状況が違ったからこそ問題だった。


 今回は美銀が泣いているわけでもないので、正面で向かいあって眠ることになったのが、一番の問題要素。


 ここで注釈でも入れておきたいのだが、美銀は結構着やせする。

 どちらかと言えばゆったりとした服装を着ることが多いから、意外とわかりづらいが、かなり()()


 夏祭りの時。

 浴衣越しに触ってしまった時、僕は理解してしまい、知識として持ってしまい、この手が情報を得ていた。


 あとからかるーく話題を出して、それとなくサイズを聞いてみたところ。


「Eです」


 とだけ、返された。


 高一でそれはやばいだろ。


 ましてや、正面から抱き合って寝るような状況だと、否が応でもあたる。

 あたって、情欲が刺激されないのなら僕はきっと男ですらないかもしれない。心が女の子説まである。


 なので。

 まあ。

 抱き合って、情熱的な眼差しでこちらを真っすぐ見てくる美銀に、僕は情けないことに頼みこんだ。


「失神させてください」


 僕は自ら新しい領域を開拓した。

 一番開きたくなかった未知の扉を叩いた。叩かれた。


 ……意外と悪くなかった。


 *


「それでさ、その時の御船君のおびえた顔ったらもうどちゃめちゃに可愛くてさ!」

「本当ですか椿? ちょっと今言葉でなんとか表現してくれません? 起きてから描くので」


 なんだか、隣がやけにかしましくて、うるさい。


「あ、少し聞きたかったのですが、今日の電車で見た和士の寝顔はとても落ち着いていました。何か心境の変化でもありました?」

「あー、まあちょっとね。あたしの口から言いたくはないんだけど、いい方向に向かってたよ」

「そうですか、それが聞けただけで充分です」


 知っている声が、二つ。

 一つは透き通る氷のように涼しく、澄んで落ち着いた声。

 一つは美しく人を惹きつけながら、常に他人を見下す気障な調子の声。


「そいえば白刃ちゃん、あんたって御船君がお母さんの親友の息子だってこと、最初に出会った時からわかってたの?」

「まさか。『運命の人と出会うのはこういう感覚』としか思ってませんでした。母親とどこか似ているからと言って、本当につながりがあるとまでは」

「ほーん、じゃあ出会い自体は偶然だったってことか?」

「……まあ、多分なんですけど偶然というより、必然に近いと思います。いろはさんと私のお母さんが生み出した行動が、いろいろな道を経てここまで辿り着いた。説明ができる偶然は、必然ですから」

「へえー、リアリストだねえ」


「そうでしょ、美銀のリアリストっぷりはロマンチストの僕にとって見習いたいぐらいの憧れだよ」


 相槌感覚で言った僕に、二人は声を失くしながら目を見開いて驚愕している。

 何か、見てはいけないものを見たかのように。


「あれ。美銀に、椿? えっと、うーん、あれ? 椿がなんで美銀と一緒にいるの?」


 首を傾げながら二人を見つめた。

 見つめていたら、椅子に座っていた美銀は椅子を蹴って立ち上がり、なんとベッドに横たわっていた椿までもが体を起こして、音が遅れて聞こえてくるほどのスピードで、同時に飛び掛ってきた。

 獲物を狩るような、獣の王の如き獰猛な目で。


 それを。

 僕は、両腕で止めた。

 右手で美銀の首を掴み。左手で椿の頭を掴んだ。

 最強の矛と、最強の盾を、それぞれが拮抗するように。

 矛盾状態を生み出し、鍔迫り合いで打ち消すように彼女らの突撃を止めた。


 絵面的には完全に、弱者をいたぶる強者になっていて女の子二人に申し訳なさが浮かんでくる。

 けど配慮する暇もない勢いで突進されたら、さすがにこうなる。


 首を掴まれたまま苦痛で顔を歪ませている美銀が叫ぶ。


「こほっ……つばき、なんで和士が起きてるのですか……!?」


 疑問に対し、僕の掴んでいる手で顔の上半分が隠れ、表情がうまく読めない椿がなんとか口を動かし、答える。


「知らねーよ……! 普通に寝てたなら起きることはあり得ないって! あたしがある程度コントロールしてるんだから!」


 普通に寝てたら?

 コントロール?

 なんで起きている?


 彼女らの問答を自分の中でかみ砕くことで、少しずつ頭が回り始め、今の状況を把握する。


「あー、ここ、夢か」


 確信した。

 というより、思い出したという方が正しいか。

 いつも夢の中で椿に話を聞いてもらって、けれどその記憶は夢から覚めた時には消えていて、というより消されていて。


 ここは毎日眠るときに訪れる、真っ白な病室だ。


 ならば。

 そこになぜ、美銀がいるのか。

 しかも、先ほど二人は話していたようにも思う。


「えーっと……いくつか質問したいことがあるんだけども、良いかな?」

「御船君! 寝ろ! そしてさっさと忘れろ!」

「そうです和士! ここでのことは記憶に残してはいけません!」


 答えるつもりもなく、ただ大人しく従えと言わんばかりの諭し方。

 それに対し、苛立ちと反抗心が沸き立つ。


「……なんか、仲間外れされてる感があって寂しいんだけど」

「いや、違うんだよ御船君。ほら、大人が夜話し合う時間ってあるじゃん? 子供には聞かせられないお話とかをしているから良い子は寝ましょうねっていうさ」


 僕の手が覆いかぶさっているせいで口元しか見えない椿は、ごまかすようにへにゃりと笑いながら言う。

 続いて美銀が喉から絞り出すように声を発する。


「あ、和士……仲間外れではないのです。受け入れられない事実であったときのあなたの心労を考えて……こほっ……」


 僕の手が首を掴んでいるため、かなりつらそうに話す美銀を見て、慌てて手を離す。

 苦痛に表情を歪ませている美少女を見てそそられるものがないといえば、まあノーコメントだが。


 僕の安眠を邪魔をした彼女らへの、ささやかなお仕置き。

 思わずこちらの膂力で押さえつけてしまう形にはなったが、これぐらいしないと先ほど彼女たちが本気で向けてきた牙を防ぐことなどできないのだ。


「その……ごめんね二人とも? 痛かった?」

「痛いというよりさ、驚きの方が勝ってるよ」


 椿が頭を抑えながら、苦虫を噛み潰したような顔で言う。


「あたし、初めて御船君に止められたよ。交代を自らの意志でストップされたわ」


 止められた?

 交代をストップ?

 うーむ、いまいち椿の言ってることがわからない。


 喉をさすりながら声の調子を戻していた美銀が、続ける。


「青は藍より出でて藍より青し……なんて言いますからね。弟子が師匠を超えるのは至極当然の話かもしれません」

「あー、いよいよ超えられちゃったか。こりゃあもう必要ないレベルだね」


 必要ない……?


「あのさ……二人はどうして、僕の夢の中で話せているの……?」


 ばつが悪そうに美少女二人は目を合わせつつ、嘆息。

 けれど、僕のことを無下にもできないと考えたのか、美銀が率先して話すことを決めたようで居住まいを正す。


「和士、これから聞く話は信じられないものも多数あると思いますが、とりあえず質問は最後までとっておいてもらえますか?」

「わ、わかった……」


 話始めに、念入りに言ったその約束を守ることが、対話の最低条件だと。

 美銀の()がそう語っていた。



いつもお読みいただき、ありがとうございます。


あと数話で最終回となります。

それまでどうか、よろしくお願いします。

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