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クールな白刃さんはデレで殺す  作者: アオカラ
第三章 死が二人を別つとも
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第69話 新しい力と古い鎖


 チュンチュン、じーじーと、鳥とセミの鳴き声がぼんやりとした思考に入ってくる。


 朝だった。

 目を開けて、ベッドから起き上がる。

 視界に入る景色が自室では無い。

 見慣れない景色で一瞬まだ眠っているのかと勘違いする。


 違う。

 僕は昨日、白刃家に泊まったのだった。

 ここは美銀のベッドで、カーテンは開かれて柔らかな朝日が部屋に流れ込み、少しずつ意識が冴えていく。


「あれ、美銀さん……?」


 いない。

 一緒に寝たはずの彼女がいないことに少し不安を覚えて、思わず名前を呼んでしまう。


 とん、とんとん、と階段を素早く上がってくる音。

 がちゃ。


「呼びました?」


 朝ごはんの用意をしていたのかエプロンを付けて、右手に包丁を持っている美銀がちょっと嬉しそうな目をしながら、こちらを見ている。


「こわい」

「何が怖いのです?」

「全部」

「あらそう、寝起きの和士を見れて私は幸せですけどね? いえ、なんなら寝顔も一時間ぐらい見れましたので正月の朝みたいに爽やかな良い朝です」

「クレイジーサイコダイヤモンドって命名してあげる」

「じゃあ和士は名付け親で最強のスタープラチナですね」

「いや、僕が最強なら美銀さんは無敵だよ。あと包丁が怖い、近づかないで」

「………………」

「そんなマジに落ち込む!? わっ、ちょっと涙目になってるじゃん! ごめんて! 言い過ぎたって!」

「さっきまで切ってた玉ねぎが染みて目から鱗が落ちているだけです」

「意味が変わってきてる!」

「自分の傷を治せないってのが、一番の弱点でありながら面白さを作り上げていますよね。ゴールドエクスペリエンスも見習ってほしいです」

「移植するのめっちゃ痛そうだから欲しいスタンドではないよね……」


 朝からスタンド談義も悪くは無いけど、とりあえずそのきらりと輝く刃物だけは収めてほしかった。


「で、呼びました?」

「なんでわかったの……」

「昨日一緒に寝たことで、和士の感覚が手に取るように分かるようになったのです。これからは例え世界の裏側に居たとしてもどんな感情をしているのか分かります」

「地球の裏側どころか世界の裏側でも分かるの!? 超能力じゃん!」

「魂レベルで繋がったのですよ。今は悲しそうにしているのを察知して駆けつけました。なでなでしましょうと思って」

「包丁片手になでなでとか、傍から見たら精神的恐怖で言いなりにさせてるようにしか見えないって!」


 殺す前にたっぷり可愛がってるようにも見えるよ!

 やっぱりクレイジーサイコパスじゃん!


 こほんと美銀は咳払いして、話題を切り替える。


「ま、それはそうと朝ごはんがそろそろできますので、下に降りてきてください」

「わ、分かった」

「では」


 ぱたんとドアを閉めて、美銀は嵐のように去っていった。

 彼女は、僕にだけ刺さる恐ろしい力を得てしまったようだ……。


 *


 鮭の塩焼きに味噌汁、ごはんに卵焼きとシンプルながら美銀の腕が一番顕著に出てくるラインナップで、朝食はとても美味しかった。

 朝の体に染みわたる、滋味。優しいお味で、心臓バクバクな寝起きからうってかわって穏やかな時間だった。


 美銀はあの真っ白なネグリジェから外出着に着替えている。

 無地で白い七分袖のブラウスに、黒いパンツでシンプルながらも髪型はハーフアップでちょっと手が込んでいる、オシャレポイントだ。

 改めて思うけど、落ち着きのある格好や雰囲気が僕の好みだというのをよく分かってる人だよなぁ。


「和士」

「ん? どうかした?」


 朝食を終え、僕も寝間着から自分の服へと着替え終わり、寝室からリビングに戻ってきたタイミングで、聞かれる。


瀬音椿せおとつばきって、知ってます?」


 ……え。

 聞き慣れた名前、忘れもしない名前を、教えていない人の口から放たれて思考が固まる。


「その反応から、察することができました。これ以上は聞きませんので、気にしないで下さい」

「なん、なんで知ってるの……?」


 無視。

 美銀は僕の問いに答えず、黙々とキャリーケースの中身を整理整頓していた。


 歩み寄り、彼女の隣に立つが、美銀は目を合わせない。


「教えてはいないはずだよ。いくらあなたにも名前までは」

「知った、と言えば良いですか?」

「どこで?」

「どこかで」

「はぐらかさないで、ちゃんと答えて」


 肩を掴んで、無理やり美銀の瞳を覗く。


 けれど。


 ()()()()()()()()()()()()()()()()


 何も、分からなかった。

 彼女の瞳は奇麗だが、感情も、思いも、いつも見えていた豊かな色合いが感じられない。

 いや、彼女が感情も全くない状態で、薄暗い目をしているわけではなく、僕の目の方が濁っている。

 コンタクトレンズを外したようにぼやけている。


 僕が、僕自身が、彼女の瞳に存在しているはずの感情を読み取れなくなっていた。


「あ、え……」

「ふふ、奇麗で可愛い目をしてますね」

「いや、そんなこと……ってそうじゃなくて。美銀さん、教えてください。何がどうなって、君は彼女を知ったの?」

「あなたが昨日、寝言で言っていたのです。瀬音椿って」

「僕が……?」


 寝言。

 ということは、夢を見ていたのか?

 瀬音椿。中学の頃に亡くなった、僕の昔の好きな人。

 彼女の夢を見ていた、ということなのか……?


「覚えてはいないのですね」

「……自覚ない」

「そうですか」


 読み取れない。

 美銀は目の前で悲しそうな表情をしているが、本当に悲しいと思ってその表情をしているのかが分からない。

 それは僕が今まで目に入る情報だけで、その時の感情を判断をしていた、ということ。

 今までできていたことが、できなくなっている。

 彼女の奥底にある、本当の想いが。

 感じられない。



 喪失感で呼吸が荒くなる。全身の血液が沸騰したかのように沸き巡り、酸素を欲する。

 吸っても、吸っても、酸素が足りないような錯覚に陥る。

 吸う、吸う。

 吸って、吸って、吸う。


 吐き出すことを忘れ、呼吸のリズムが乱れる。




「和士、大丈夫です」


 その言葉が意識に入り込んだ時、僕は美銀にもたれかかっていた。

 受け止めるように抱擁され背中をさすられている。

 過呼吸になって、失神しかけていたようだ。


「大丈夫、大丈夫ですよ。ゆっくり呼吸して。吸うだけでなく、吐いてください」


 言われるまま、僕は胃から、肺から空気を吐き出す。

 美銀から言われた事を数秒繰り返すことで、ようやく真っ白になっていた意識が戻り始める。


「はぁっ……はぁ……ふ、はぁ……」

「どうです、落ち着きました?」

「あ……はぁ……うん……ごめん、重いよね……離れる」

「だめです、このままもたれかかりなさい」

「けど……」

「今のあなたを離したら、また倒れます」


 目から感じ取れなかった感情が、優しい声で理解できた。

 彼女は僕の頭をゆっくり、一定のリズムでなだめるように撫でる。


 心配してくれている。

 美銀の愛が、彼女の言う心の繋がりから少しずつ入ってくる。

 当たり前にあったものを失った辛さを受け入れてもらい、安心で涙が溢れてきた。


「う……ご、ごめん……ごめん美銀さん……」

「存分に、泣いていいのですよ。今は私しか見てないのですから」


 ぱきん、と。

 何かが、外れるような感覚だった。

 何かを、外してくれた気分だった。


 せき止めていた物が一気に溢れ出すように泣いた。

 泣き崩れた。

 美銀の胸に顔をうずめながら、声にならない嗚咽を続けた。


 目の中の感情を読む力は。

 瀬音椿の受け売りだった。

 彼女から教えてもらったやり方を失くしてしまったのは、アイデンティティを消されたような喪失感なのに。

「それでも良いのですよ」と受け入れてくれ、体と心で僕を受け止めてくれる美銀の深い愛に甘えてしまい、ただひたすらに泣き続けた。

いつもお読みいただきありがとうございます。


クーデレさん(周りから言われた本作の略称)はあともう少しで、完結いたします。

読んでみて「いいね」と思ってもらえたら、ブックマークや★★★★★で応援していただけるととっても嬉しいです。


次回「決別」です。

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