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クールな白刃さんはデレで殺す  作者: アオカラ
第三章 死が二人を別つとも
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第62話 涙の元凶


「さて、じゃあそろそろ行くか」

「……え?」

「やることはやったしな、お父さんは仕事に戻るよ」

「仕事にって……帰ってきたばかりですよね? もう少しゆっくりしていっても……」

「本当はそうしたいんだけど、常連さんが待ってるからね」


 きっと、今日は店を臨時休業までして来てくれたのだろう。

 刀夜がそこまで店と常連を大事にするのには、理由がある。


 私が小学二年生の時。

 母親が亡くなって世話をしてくれる人が居なくなった時、海外に単身赴任していた刀夜は選択を迫られた。


 日本へ戻り、新しくやり直すか。

 誰かを雇って私の世話を任せて、そのまま仕事を続けるか。


 普通なら、前者だろう。

 一人になってしまった子供の近くに親が居ないなんて、悲しすぎる。

 けど、私はお父さんがどれだけ努力をして、一からお店を築き上げてきたのかを子供心ながら理解していた。

 料理と真剣に向き合い、もてなす誰かの喜びを心から願うあの背中が、私には眩しくて憧れだった。


 だから、父親の積み上げた土台を私の都合で壊したくなかった。

「美銀のことは気にせず、おみせと常連さんをだいじにして」と見栄を張り、背中を押してから刀夜は憂いも無く仕事をこなせている。

 言ってしまった手前、今更撤回することはできないし、するつもりもない。

 刀夜は娘とした約束を心の芯とするほど、大事にしているからすぐに旅立つのだろう。


 それでも。

 ほんの少しぐらい家族との時間を大事にしてほしいと思ってしまうのが、和士から移ってしまった卑屈さとわがまま。

 こんな考え、彼に出会う前は頭の中に浮かんでもさらっと流していたのに。


「表情豊かになったね、美銀。昔みたいだ」


 言われて、自分の顔に寂しさと悲痛な感情が浮かび上がっていることに気付く。

 最近この辺りに戻ってきたから、過去の私を知る人は少ない。精々家庭科部の長である葵お姉ちゃんぐらい。

 恐怖心を周りに与えてしまう雰囲気は変わらないが、昔は表情筋もしっかり動いていたからこそ、刀夜は今の私を見て嬉しそうに微笑んでいる。


「死んだ細胞を起こしたんだから、彼は魔法使いだね」


 魔法使い。

 それはきっと、常人ではできない魔法を扱うという意味より、魔性の魅力を持つという意味の方が強い。

 呪いのようで、お呪いのようで。

 自分の為では無く、誰かのためにしか使われない力。そんなの、誰かの不幸を肩代わりしてるだけ。あんまりだ。

 あの人には、誰かが付いてあげないといけない。


 もしくは。

 その魔法自体を取り上げるか。


「あとはまぁ、デキ婚だけはやめてな」

「ちょっと」

「おじいちゃんになるのもそれなりに準備が必要だからね。せめてあと二年はくれるかい?」

「話が早いです」

「でも結婚するつもりなんだろう?」

「ぐっ……」


 それはもちろんそうですが。

 若気の至りとか、熱に浮かされてるだけかもしれないと今の関係を客観的に見ているのに、なんでこうも周りが外堀を埋めてくるのか。

 私が途中で他の誰かを好きになったらどうするんですか。

 ……いえ、それはないって言えますけど。


「好きとか愛云々も大事だけど、パートナー選びでもっと理想的なのは『一緒に居て疲れないこと』だよ。まだ二人は熱が強くて多少刺激的な日々を送っているだろうけど、ペースとかは似てるんじゃないかな? そこがお似合いだと私は思ってるよ」

「ほう……そうですか」


 人生の先輩がそう言ってるのなら、信じてみましょうか。


「じゃっ、お父さんは行くよ。あっ、これお小遣いね」


 そう言って刀夜は万札を二枚テーブルの上に置いた。

 私と和士、両方の交通費やデート代諸々を含めた金額だろう。だがそれにしても高校生には大金すぎる。


「多すぎます、生活費だってちゃんともらってるのに」

「せっかくの夏休みなんだから、遊んできなさい」

「でも……」


 有無を言わせず、刀夜は鞄を持って玄関の方へ足を進める。

 こっちが何を言おうと、どれだけ遠慮しようとも折れることは無い。押しつけがましい善行をする人であることは、よく理解していたから娘の私が折れる。

 靴を履いて、ドアに手をかけながら顔だけこちらに振り向ける。


「それじゃ、和士君にもよろしく言っておいて。お義父さんと呼ばれる日を楽しみにしてるって」

「……分かりました」

「またいつでも連絡して良いからね」


 がちゃりとドアを開けて、未練や情緒に浸る事もなくすたすたと父親の背中は離れていった。


 全く、好き勝手なお父さんだこと。

 離れて暮らしていたら、別れる事も慣れてしまうのか。

 娘の私はそんなことないのに。


 目の奥から滲みだした水の気配は、誰にも見せることなく消えていった。

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