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クールな白刃さんはデレで殺す  作者: アオカラ
第三章 死が二人を別つとも
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第58話 華より花


 結局僕と刀夜さんは美銀の策略により、二人で花屋に訪れた

 彼女のお父さんと二人きりになったら、正直会話のネタに困る。

 年齢によってどんなことを話せばウケるとかも変わるし、趣味から攻めようにも今日会ったばかりな所為で僕は刀夜がどんなことが好きで、何を生きがいにしているのかも知らない。

 それは向こうも同じようで、何を話せばいいのかよく分からず微妙な空気が二人の間を漂っていた。


「あ、和士君……」

「は、はいっ、なんでしょう……?」

「ご趣味は……?」

「え、えっと、読書です……」

「そっ、そうか。賢そうだもんね……!」

「い、いえいえ、そんなことないです……!」


 なんだこれ。お見合いか?

 美銀ともこんなお見合いになる可能性少ないよ。いや、あの人は出会った日から「すきすきオーラ」が激しかったからまた別物だけど。


「ほ、他に好きなものはあったりするのかな……?」


 趣味のウケが良くなかったのか、僕のことをさらに知りたいのか、続けざまに刀夜はおずおずと尋ねてくる。

 しかし、これはもしかしてもしかすると試されている気もすると邪推する。

 僕の人間性と、愛情と、ボケ能力を。


「……美銀さんです。ってごめんなさい待ってください、殺気で咲き乱れている花たちがなびいてますっ! それに中てられたら僕死んじゃいますって!」

「くっ……殺気と咲をかけつつ、花がなびくほどの男だと遠回しに褒めつつ、そして極めつけに毒に中てられて死ぬという自虐まで込めた言い回し……! 不覚にも、なんてセンスが良い男なのだと思ってしまった……!」


 あ、なんか似てるわこの人。

 卑屈だけどそれを冗談に交えるところとか、ちょっとした言葉をめちゃめちゃ拡大して深掘りし、誇張解釈するところも美銀に似ている。いや親子だから当然か。

 なんだか刀夜さんの雰囲気、好きだな。


「……好きな物、今もう一つ増えました。お父さんのことも好きです」

「お義父さんではない! お刀さんと呼びなさいっ!」

「ツッコミの要求レベルが高いですね!? なんですかその名刀を擬人化したら敬称が付いて原型無くなったみたいなニックネーム!」

「読めたのか、第四の壁をッ……!?」

「刀夜さんもしかしてロボ系アニメとか好きな人ですか! 言い回しがっぽいですね!」

「地の文は、こう使う」

「これ会話文ですっ!」


 話してて楽しいけど一気にパワーをドレインされる系だ。理解しなくていい。

 結構前にこんなハチャメチャな会話を美銀と楽しんでいたことを思い出して、慣れたものだと思い込んでいたら新手がやってきた。

 さすが彼女の親だ。人生経験というかジョーク経験値が一回り高く、今の僕では太刀打ちできないだろう。


「いやはや恐れ入ったよ和士君。私は近くにこんな調子でジョークを振り散らかす可愛い娘が居るせいで、彼女が誤解されないようにツッコミ役に回ってからは自分をさらけ出す機会が減っていてね。気持ちいいツッコミが来て楽しいよ」

「そ、それは良かったです……」


 まぁ確かに、美銀はちょっと踏み外せば誤解されやすい事を言ったり、行動する人ではある。

 ところ構わずジョークを言うのでは無く、相手を選んで言っているなら問題ないのだけど、そこら辺のブレーキが美銀には欠けている。


 たとえば、これは夏休み前の水泳の授業後のお話。

 髪を十分乾かしていない、というかシャツの肩にもぽたぽたと水滴が垂れているほどずぼらな男子が居て、見かねたのか美銀は、


「水も滴る良い男を台無しにしたくはないのですが、風邪を引かれて休まれたら、もっと寂しいです」


 と言い、タオルでその男子の髪をさっと拭いていた。


 まず間違いなく、あれは勘違いする。

 クラスの美人にあんなことされて何も思わない男子が居たら、きっとそれは幼馴染の恋人がいるか、婚約者がいるとか、もしくは女子に興味が無いか。


 もちろんクラスメイトのほとんどがその場面を見ていたので、その次の水泳では髪を十分拭かない男子生徒が増えた。

 教室内が男子の髪から落ちる水滴で凄まじい湿気に包まれた現場を目撃し、「五分やるから拭いてこい」と教師に怒鳴られ、女子達は馬鹿なものを見るように呆れていた。


 ちなみにこの話は結構良いオチがあって、美銀に髪を拭いてもらったずぼらな男子は心変わりしたのか、教室内にできた水たまりを綺麗にしたり、他の男子の髪を拭いてあげていた。

 五分ほどで面倒事が解決したのも彼の助力あってこそであり、少し不潔な印象を持たれていた彼はあっという間に良い印象をみんなに与えて、クラスの輪に入る場面も見かけるようになった。

 しかも身だしなみに気を遣うようになり、結構見違えた。


 ずぼらな彼を更生させることまで計算していそうな美銀だが、多分あれは無意識だ。

 あれ、ラノベ主人公がヒロインやってない? 

 いや逆かな、もうわかんないね。


「閑話休題」

「刀夜さん、会話文でそんなこと言ってくるとか予想したくなかったです。脚本がクソって言われますよ」

「私こういうキャラだから」

「身も蓋もないっ!」


 刀夜さんは険悪な空気を殺すシリアスブレイカーならぬ、第四の壁を壊すウォールブレイカーだった……。

 一人いるだけで物語の方向性が変わってしまうタイプだ。そりゃパワー吸われるわ。


「まぁとりあえず、オススメの花選びというのを是非聞いてみたいね」

「あ、ええっと……そうですね」


 決して目的を忘れていたわけではなく、会話が楽しいから意識の外に居ただけで僕らは花を買いに来たのだ。


「安定を取るなら、やっぱり菊の花ですね。逆に一番ダメというか、ほぼタブーなのはヒガンバナぐらいですね。それ以外は毒がある花とか香りが強いとか、薔薇みたいに棘があるものとか」

「ふむふむ」

「……けど」


 花屋で活き活きとし、美しく咲き誇る生花を見据えながら僕は一拍置いて続ける。


「生前の人を知ってるのなら、その人が好きだったお花でも良いです」

「毒や棘があったとしても?」

「はい。棘を切って取り除いたりしたら、飾っても良いなんて言われます」

「なんだか裏技っぽいね?」

「はは、そうかもしれません。マナーとかルールの抜け道を探した感はあります。でも、『どうしてもその人が好きだったお花を供えたい』っていう気持ちが見えるようで、僕は好きですね」


 大衆に見せる葬儀でもないなら、大袈裟に気を遣う必要は無い。

 故人へのお参りは敬意を忘れない風習でもあるが。

 それ以上に残された身内たち、今生きている者が死から遠ざかるためにある。

 四十九日が後追い自殺を防ぐための風習であるように、墓参りは故人の記憶を呼び起こし、郷愁を味わい気持ちを軽くすることにある。

 そのためなら、多少ルールから離れても自分たちが納得のいく方法を取った方が良い。


「……そうか。今までは無難に菊を買ってたんだけど、和士君の言葉を聞いて、少し軽くなったよ」


 悶々と悩み、それでいてどこか嬉しそうに苦笑していた。今までの考えが重かったと自覚したのは、他人から放たれた甘い言葉に浮かされたおかげだろうか。


雪乃ゆきのが……あっ、ええっと、お墓に居るその人の好きな花がスノードロップというお花でね」

「ああ……」


 スノードロップ。ヒガンバナ科ガランサス属。

 和名は待雪草マツユキソウ。外側と内側に白い花弁を三枚ずつ持つ六弁花。

 ヒガンバナ科で、さらに言えば切り花としての適性があまり無いため、花屋で売られていることは少ない。あっても植木鉢か、球根だ。

 垂れ下がるように下向きに咲く真っ白な花は可愛らしく、奇麗で人気の花ではあるが、供える花としての需要はヒガンバナの系譜でもあるためほとんどない。


 僕の苦い表情を見て察したのか、刀夜は困ったように笑う。


「いや、良いんだ和士君。私も調べたことはあるから、適してないことは知っている。けどね、専門家の意見を聞いたらなんというか、少し気が晴れたよ。スノードロップ以外に、何かあの人の好きな花を思い出したらそれを買う事にしようかな……はは」


 気落ちする感情をどうにか口元だけは笑顔を作って誤魔化している。

 それは、花に詳しい僕が遠回しに「ヒガンバナはよくない」と伝えてしまったから。


 でも。

 それで諦めるだなんて。

 マナーやルールで身を引いて、この話は終わりだなんて。

 そんな弱気な姿勢で、専門家を名乗れるわけがない。

 美銀が自分の父親と僕をわざわざ二人きりになるよう仕向けたのは。

 僕が打開策を見つけられるほどの専門家だと、見込んでくれたからじゃないのか?

 自分の彼女に託されたのだ、それに応えなくてどうする。

 武士道が泣くぞ。


「……刀夜さん。スノードロップをお供えできる裏技があるとしたら、聞いてもらえますか」

「えっ?」


 驚きつつも興味が勝ったのか、口を開けたまま僕を見る刀夜さんへ真剣な表情で返す。


「スノードロップの造花なら、売っているかもしれません」



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