第43話 ファーストステージ
「やるわね美銀……制限時間が無かったら永遠にやり合えそうな腕してるわ」
「光栄です。まさか姫がランカー並みの実力だとは知りませんでした」
「ふっ、相手の力量を測ることが上手い奴が、勝負事で優位に立てるのは当然だけど、あんたはそこを突き詰めてるようね。見てからすーぐ対策されちゃったわ」
「ふふふ、褒め過ぎですよ?」
お互い不敵に笑いつつ、火花と冷気がぶつかった空間が二人の間にできるほど睨み合いながら、眠り姫と氷姫は楽しそうにしている。
乱闘型の対戦アクションゲームで最初は普通に遊んでいたけれど、僕とカズが弱いというより姫と白刃さんが強すぎて勝負にならなかったため、二人ずつで組んでチーム戦をしていた。
しかし彼女らは歴戦の猛者のように攻守様々なテクニックを駆使しまくり、僕とカズは全く敵わなくてすぐ撃沈し、姫同士の一騎打ちになる。先にやられて手持ち無沙汰になりがちなのに、白刃さんと姫の勝負は観戦してるだけで楽しくなるぐらい盛り上がった。
「二人とも、良い好敵手が見つかったみたいだね」
「だなー。俺何回助けられたか分からないぐらいだ、姫もそうだけど白刃もゲーマーだな」
カズと僕はもはや観戦者目線で二人を眺める。プロゲーマーレベル同士の戦いに柄も無く感動していた。
「……あっ、もう七時半か。あたしらはそろそろ帰るか」
そんなこんなで遊んでいたら姫がスマホで時間を確認し、持ってきたゲーム機の片づけを始める。
「姫、送っていくぜ」
「そのつもりよ」
さも当然のように話し合う二人。相棒感半端ないな……。
「途中まで付いて行きますよ?」
カズに続いて自然に言いのけた白刃さんは、女の子であることを忘れかけそうになるぐらいカッコイイ。
「いや、今日の主役にそんなことさせるわけないでしょ……」
「あ、じゃあ僕が」
「お前も主役だろうが!」
ツッコミと共に姫から意味深に睨み付けられて、はっとする。そうだった、メインイベントはここからだった。それを思い出した僕はあっさりと話題を変える。
「じゃあ、家の片づけは僕と白刃さんに任せて。もう暗いし、二人とも気を付けて帰ってね」
「はいはい、こちらこそ楽しかったわ」
「ケーキ美味かったぜ!」
計らいにすぐ気付いた僕を確認して安堵したようなため息をつく姫。その隣でカズはこれから起こる出来事を予想してか、にやにやしている。
二人を白刃さんと一緒に玄関で見送ったら、僕の家は同い年の女の子と二人きりの空間になってしまう。
いや、慣れてはいるけどそれは理由がある場合だ。
おかずのおすそ分けだとか、夜ご飯だとか、パーティだとか。
そういった大義名分があれば一緒に居ることは別に問題ないし、悪くはない。
だから、洗い物も後片付けも終わってすることが無くなり、二人きりになってしまうと心がふわふわ浮いたようにむず痒くなる。
「片付けも終わりましたし、私はそろそろお暇いたしますね?」
白刃さんは洗い物を終えて、ハンカチで手を拭きながらもう帰ろうとしている。
時刻は七時五十分。
あと十分以内に来るはず。それまではなんとか、場を繋がないと。
「……あ、あの。白刃さん」
「はい、どうされました?」
「えーっとさ、結構前に言ってた紅茶の話なんだけど。その、白刃さんって普段よく飲むの?」
僕は彼女の退路を塞ぐように、キッチンの出入り口に立ちながら話題を持ち出す。
「はい、飲みますよ」
「どんな種類をよく飲むのかな。ダージリンとか? それとも香りの強いフレーバー系?」
「家でよく飲むのはアッサムですね。フレーバーもたまに飲みますが、ほとんどは香りの強くないものですね」
「ほー、そっかそっか」
顎に手を当てて、考える素振りを見せる。
「……和士君、お返しは大丈夫ですよ?」
「えっ? いや違う違う!」
「ケーキ、本当に美味しかったのですからあれだけで十分、お気持ちは頂きました。だから気にしないで下さい」
「あ、それなら良かった。今回は結構本気で作ったから、そう言ってもらえて嬉しいよ!」
他愛ない世間話で時間を潰していると、「ピンポーン」とドアベルが部屋に鳴り響く。
「あれ、カズか姫が忘れものでもしたのかな。ちょっと出てくるね」
「忘れ物……? 特に見当たりませんが」
白刃さんは綺麗になった部屋で忘れ物があるかどうか探す事に気が向いている。チャンスは、ここしかない……!
素早く、けれど決して焦らず廊下を進む。
玄関の先に居たのはカズでも姫でもなく、配達員さん。この前水族館に行った時、お願いしたブツだ。
ハンコを押して上半身ほどの大きなサイズの段ボール箱を受け取る。
すぐカッターナイフで封を開け、海色の波模様をした袋でラッピングされているプレゼントを取り出す。
不安、期待、願望。
様々な感情が入り乱れてどくんどくんと心臓の鼓動が早まる。
きっと今の脈は1.5倍ぐらいだろうなと心の中で笑うと、深呼吸ができるぐらいには浮ついた気分が落ち着く。
深く息を吸い込んで短く吐き、感情をリセット。
このプレゼントは、僕が彼女にあげたいと思ったから。喜んでほしいと思ったからあげる。
……いいや、違う。
これは、お返しだ。
大義名分を気にするな、開き直れ。
目には目を、サプライズにはサプライズだ。
リビングに繋がるドアを開けると、テレビ周りを探っている白刃さんの背中があった。気配だけで僕を察知し、彼女は振り返らず声を放つ。
「やっぱり、忘れ物らしきものは無いように思うのですが。玄関の方でしたか?」
「……いや。忘れたらいけない物をもらってきたよ」
「えっ?」
僕の意味深な発言に、彼女はようやく振り返る。
「誕生日おめでとう、白刃さん」
両手で袋を抱えている僕を捉え、彼女は目を見開いて、今まで見たこともないような驚愕の表情を浮かばせる。
ファーストサプライズは、成功だ。




