第39話 三人で作戦会議
白刃さんと水族館デートをした夜、僕はカズと眠り姫にメッセージを送った。彼女の誕生日が明後日であることを伝えると、二人はすぐさま返信してきた。
『なんであたしらにも教えなかったんだよ!』
『俺なんにも準備してねえぞ!?』
『ごめんなさい……僕も今日知った……』
三人グループを作ってやり取りをするが、誰もが困惑と驚愕に満ちている。
『どうするのよ。プレゼントとか準備するにしても時間がほとんどないわよ』
『明日ショッピングモールにでも行くか?』
『一応プレゼントは僕が用意しておいたから二人は気にしないで』
二人も一緒にお祝いしようと考えてくれている。その優しい気持ちだけで、僕はどこか嬉しくなる。
『実は、一緒にお祝いしてくれるだけでいいんだ。四人でわいわいパーティがしたいから』
『ホントにそれだけでいいの? 明日は暇だし買い物付き合うわよ?』
『俺も全然いいぞ』
『いや、大丈夫。わざわざありがとう』
きっと二人も白刃さんの事を大事な友達と思っているから、プレゼントを贈りたいと思っているんだろうけど。
僕が二人に誕生日を教えて促したとなったら、悪いプレゼント文化になりそうな気がして思いとどまる。
『これからこういう事ないように、御船の誕生日も控えておくから教えて』
『おう、あきとのは逃さないぜ』
姫とカズから届いたメッセージを見て、冷や汗がつつーと頬を流れる。
嘘をつくこともできず、恐る恐る指を動かして文章を打った。
『六月二十日です』
パッと見では分かりづらくなるように、漢字と細かな日付をメッセージで教える。
『御船、おまえ』
『今日じゃねーか!?』
無念だ……努力は叶わなかった……。
『ちょっと待って。美銀の誕生日を今日知ったって言ってたけど。んでさらに今日はあんたの誕生日ってことは』
『白刃とデートしてきたんだな!』
シュッシュッと流れてくるメッセージがジャブのように、僕の精神にダメージを与えてくる。
『違うんですよお二人さん。デートだったけど今日だけのカップルで、別にやましいことも何もしていないですから』
そんなメッセージを送ると、ぴたりと返信が止む。
「……?」
既読は二つ付いているのにメッセージが返ってこないことを不思議に思っていると、突然携帯の着信音が鳴り響き、グループ通話がかかってくる。
相手はカズと眠り姫だった。
「はい、もしもし……?」
「「告白したのか!?」」
二人は開口一番、声を揃えて言う。
「えっ? なんで?」
「いやいや、今日だけのカップルって聞いたらこっちの方がなんでって聞きたいわ!」
「そうだぞあきと! ようやく付き合ったのか!?」
「んん? ようやく?」
「……はぁぁぁ……」
眠り姫は通話相手に聞こえるほど、大きくため息をつく。
状況をまるで理解できていない者同士が喋っていることで、話が全く進まないことを悟り、姫は今日の出来事を一から聞き出した。
およそ十分後。
「まぁ……とりあえず分かったわ。カップルサービスを受け取るための口実で、本当に付き合ってるわけじゃないのね?」
「もちろん。僕が白刃さんの彼氏とか絶対見合わないよー」
「んなことねえと思うけどな。白刃とあきとはお似合いだぜ? みんな思ってる」
「えっ、そんな風に見られてるの?」
姫は鼻で笑い、呆れながらも続ける。
「無自覚系はもう廃れ始めてるって忠告しておくわよ?」
「いやいや……僕だと彼女を楽しませることはできないよ」
「……それはさ、もしかして『御船は白刃の事が好き』っていう大前提があると思っていいの?」
「えっ? うん、好きだよ?」
「……ありふれた問い方だけど、それはライク? ラブ?」
「うーん、ラブの方じゃないかな? 白刃さんの事は、異性として好きだよ」
一瞬、時間が止まったかのようにカズと眠り姫は黙り込む。
自分が失言したように思うが、どうやらそうではないらしい。
「マジ?」
「まじか、あきと」
「それがどうかしたの?」
「おいおい! どうかしたどころじゃねーよ!? それもう付き合ってるも同然じゃんか!」
「いやー、付き合ってはいないよ」
「なんでさ!?」
「だって『お付き合いして下さい』とは言ってない……し……」
僕は今しがた自分の言った言葉に引っかかるところがあり、じわりと思い出す。
水族館デートの前日、白刃さんにお誘いを受けた時、返した言葉を。
(もちろんっす! お付き合いさせてください!)
「……ねえ姫、カズ。言葉の綾ってあるよね?」
「ん?」
「おん?」
「言い間違いってあるよね? 同じ意味でも違う意味っていうのもあるよね? 類語表現とかあるよね!?」
「ど、どうした御船?」
「あきと、なんか変だぞ?」
「ど、どうしよう……。言質を取られてたら、僕どうしたら良いのかな!?」
もし白刃さんが、手段を選ばないような人間であるのなら。
いや、そんな性根の悪い性格でないことも重々承知してはいるが。
けれども、クールな見た目から想像できないほど茶目っ気たっぷりな性格をしている彼女なら。
一生、そのネタでいじってくる。
人質ならぬ言質を使って、僕の心を半殺しにされる。
「カズ、姫。あとは任せます」
「なんだなんだ、なんの茶番だ!?」
「あきと! 死ぬには早い! 恋人とのウキウキ高校生活はどうする!」
「カズ。君なら僕の夢、叶えられるさ。だから、頼むよ」
「あきとぉぉぉ!」
「結構ノリ良いわよね、あんたら……」
電話だから顔は見えていないが、僕とカズのやり取りを聞いて姫が嘲笑しているのがなんとなく伝わる。
閑話休題。
「けどじゃあさ、なんで御船は美銀に告白しないの? 好きなんでしょ?」
「いやぁ、あはは……」
「告白できない理由でもあるってことか? 例えば、彼女が居るとか」
カズは割りと鋭いというか、答えに近いところをさらりと言ってくる。
「あれ、御船って彼女居たことないって言ってなかった?」
逆に姫は話していたことをよく覚えている。記憶量がダンチである。
「えーと、なんと言いますか……」
「……ははーん、忘れられない女でも居るの?」
「おお、あきとは一途だな」
二人はあっさり、力を合わせて正解を導き出してしまう。
「な、内緒にしてもらえますか! どういうことかちゃんと説明しますので!」
「いや、いい」
なんと姫は僕のお願いを軽く払いのけてしまう。
「えっ!?」
「ホントだったら言いふらしたいぐらい面白いネタだけど、そんな軽い感じじゃないじゃん? 御船と美銀、あんたら二人が『言って良い』って結論が出てから、あたしらは聞くわ。それまでは待つわよ。ね、カズ?」
「おうさ。姫がそういうなら、俺もその方が良いと思うしな」
「あ、ありがとう……!」
良い友達を持てた、心の底からそう思うのだった。
「んでさ、明後日にある美銀の誕生日はどうする?」
「そうだそうだ、それが本題だったぜ!」
「あ、じゃあ姫とカズにはちょっとお願いしたいことがあって……」
通話による作戦会議は、十一時近くまで続くことになる。




