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クールな白刃さんはデレで殺す  作者: アオカラ
第二章 二人の想い
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第35話 作戦開始「暗闇の吊り橋」


和士あきと君、デートをしましょう」


 六月十九日金曜日の放課後。白刃さんは梅雨で曇り空な帰り道を一緒に行く僕へ、調子を崩さずとんでもないことを口走る。


「???」

「あら、固まって言葉も出ないという表現が適切でしょうか?」

「クールジョーク? デートジョーク?」

「落ち着いてください。まず、どこへ行くのかを説明いたします」

「行く前提で話が進んでるよ? 大丈夫?」

「まぁ聞いてみてください。行先は水族館なのですが、そこは毎月二十日にカップルで行くとちょっとしたサービスをしてくれるところなのです。けど、一緒に行ける人といったら私では和士あきと君しか居なくて」

「カズ、カズがいるよ?」


 なけなしの友人リストから名前を呼び出すが、彼女はどこかばつが悪そうに視線を逸らしつつ答える。


月見里やまなし君と二人きりで行ったら眠り姫に殺されます」

「あっ……そうかもね……」


 姫は普段の物言いはストレートだが、カズが絡むと直接的に言えなくなり、抱え込むタイプである事を僕らは理解していたため、デート相手の候補からすんなり外れる。


「ですので、これはあなたにしか頼めないのです。どうかお願いします、私のわがままに付き合って頂けないでしょうか?」


 彼女の真剣な眼差しを受け、悩みこんでしまう。

 少しばかり、不安の種があるのだ。


「えと……それって何か恋人っぽいことをして、カップルであることを証明しないといけないとかある?」

「特には無かった気がします。男女でなくとも『カップルです』と言えば伝わってくれます」

「そ、それなら……」

「すみません、もしかして私が仮とはいえ『彼女』として隣に並ぶのが嫌でしたか……?」

「あー! 違う! そういうのじゃなくて!」


 手をぶんぶんと振って否定する。


「手を繋ぐとかキスとかしないといけないってなったら、僕が! 僕の方が釣り合わないって思ってただけ! けど白刃さんが良いって言ってくれるなら構いません! 何でも! 一日限定のカップルにされても文句ないです! って、ああ! こんな言い方したら余計まずいですね!?」

「……いいのですか?」

「もちろんっす! お付き合いさせてください!」


 慌てふためく全身を一度落ち着かせるため、びしっと綺麗に九十度曲げて白刃さんへ頭を下げる。


「では、明日の十時。『いつもの場所』に待ち合わせでどうでしょう?」

 頭を下げたままで、顔色は見えなかったが聞こえてきた彼女のその声色は、とても嬉しそうだった。


「う、うん。わかった……」

「楽しみにしていますね」


 僕らが集まって遊びに行くとなれば集合場所はマンションのロビー一択である。

 『いつもの』で通じるほど以心伝心しているのは、まあそれなりに良い関係を築けているのだろうと、ほんの少し自惚れてしまう。


 *


「ペンギン! 可愛いなぁ……!」

「ペンギンって、暑いところにも住んでいる話は有名ですよね」

「え、そうなの? 寒いところにしか居ないイメージだった……もふもふしてるし」

「逆に寒さが苦手な種類も居るようですよ」

「へぇ! そうなんだ!」

 

 南極エリアでは愛らしいフォルムのペンギン達を見て癒される。


「イルカだ!」

「カマイルカですね。由来は背ビレの方が鎌のように見えるからだそうです」

「はは、結構安直な名前の生き物っているよね」

「分かりやすさと、覚えやすさ重視はいつの時代も変わらないようですね」


 水の中をすいすいとかけ泳ぐイルカは、その名前のシンプルさで笑い合う。


「おー! ジンベエザメ!」

「ああ、可愛いですね……」

「えっ!? え、うん……えっ? か、可愛いかな? おっきくてすごいなぁとは思うけど」

「可愛くないですか? ジンベエザメ。水玉模様にゆらゆらと緩やかで落ち着きのあるおじいさんみたいな泳ぎ方……可愛い」

「め、珍しい趣味だね。いやでも、言われたら確かに可愛く見えてきた。ジンベエザメのぬいぐるみってなんか可愛さあるよね」

「そう、あのぬいぐるみはきっとジンベエザメの魅力を分かっている人が作ったのですよ。でなければ、あんなに可愛く出来あがりません」


 珍しく自分の好きな物を語る彼女の目は、大水槽の煌めきをそのまま映したかのように光を含んでいた。


 二人で順路を進み、次はクラゲがたくさんいる「銀河エリア」に辿りつく。

 そこはクラゲの姿をよく見えるようにするため、灯りが最低限しかなく全体的に暗いエリアだった。


「き、綺麗! まさしく銀河……!」


 ふわふわと浮いたりすぼんだりを繰り返す透明の傘は、そらに輝く星のように優雅で、美しい。


「もし飼うなら、クラゲを飼いたいですね」

「え、クラゲって飼えるの!?」

「難易度は高いですが、個人でも飼えるそうです」

「す、すごい……クラゲが家に居る生活って……」

「想像しただけで高鳴りますね」

「だね……めっちゃ癒されそう……!」


 ある程度クラゲエリアを進むと、入り口と出口から一番距離のある《《かなり暗い場所》》へ着く。

 そこに展示されているクラゲは赤色のクラゲであり、白系のクラゲより見づらいため、暗さを活かした展示がされている。


「おぉ……赤いクラゲ……」

「サムクラゲ、『目玉焼き』とも呼ばれているみたいですね」


 その見た目の珍しさに、前かがみの体勢となり水槽の中を覗く。


 ふわりふわり。透明の傘が赤色の布を連れていくように動くさまに見惚れる。

 そのせいで、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()ことに気付くのが遅れた。


和士あきと君……」


 肩へそっと片手を置かれ、息を吹きかけるよう耳元でささやかれた。

 全身がぞくりと震える。


「ちょっ! えっ、白刃さん!?」

「静かに、そのままでいてください」


 水のように美しい声は、水槽と闇に溶け込むよう細く囁き、僕の全身を電流の如く駆け巡る。たった一撫ひとなでが精神を麻痺させ、硬直した体は抵抗することを許さない。

 僕は、海月くらげ魅入みいられた。


「ここなら、人目が全く届きません」

「ひ、人目が届かない……!?」

「だって、二人きりでないと意味が無いですもの」

「な、なにがっ……!」


 細く長い白刃さんの手が、肌に触れる。触手が絡まるよう、ひたひたと首筋を撫でまわされる。

 くすぐったさを覚え、反射的に耳元まで迫っている彼女の顔へ向く。至近距離で目が合うが、銀河エリアの暗さも合わさり何を思っているかまでは見えない。


「吊り橋効果って、二人きりだとさらに効果が増すそうです。それに頼らないと、ここまで来れなかった気もしますね」

「ちょ、ちょっと……!」

「大丈夫です和士あきと君。そのままじっとして、私に任せて」


 声だけ、声しかはっきりと判別できる物のない暗闇で、ぎらぎらと輝く()が見えた気がした。

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