第34話 情報収集
白刃さんに過去の話をしてから、彼女は作り過ぎたおかずと共に僕の家を訪れるようになった。
しかも、ほぼ毎日。
ありがたいはありがたいけど、心配されているのかもしれない。
まあ無下にすることもできず、結局僕がその日作った料理を交換するといった感じでうまく関係が成り立っている。
「こんばんは和士君、今日は肉じゃがを持って来ました」
「ありがとう! 嬉しいし助かるよ!」
「和士君は今日何を作りました?」
「今日? 今日はカレーを作ったよ」
「カレー、良いですね」
「良かったら持って行く? あっいや、白刃さんも肉じゃが作ってるわけだしいらないかな?」
「いいえ、食べたいです」
「分かった! 待ってて!」
そう言って彼女を玄関で待たせて、僕は鍋からおよそ二食分のカレールーをタッパーに移して、彼女へ渡す。
「良い匂いですね。カレーってどんな気分であっても食欲をそそられますよね」
「分かる、ご飯にもパンにも合うし、色んな具を入れて楽しめるし、最強だよね」
「あと、家庭によってどんなタイプのカレーになるかも変わりますよね。和士君はそういう『家の味』は重要視しますか?」
「うーん、そんなに気にしないかな。美味しければオッケーって感じ」
「まぁそうですよね。普段からご飯を作る人がよその味に文句を言うのも珍しいですし」
「逆に白刃さんはそういうのある?」
「無いですよ。むしろ人が作ってくれたご飯は大好きですし、今日も内心ウキウキです」
「うん、知ってる」
彼女がタッパーを受け取るとすぐ目を輝かせていたのを僕は見逃していなかった。僕が察したことに気付いたのか彼女はゆっくりと目を閉じ、感情をリセットするよう咳払い。
「……こほん。ともかくあなたは『家柄や家ルールは気にしない』のですね」
「あー、気にしてたら交友関係狭くなるしね」
「なるほど、素晴らしい考え方です。それはそうとカレー、ありがとうございます」
「いえいえ! こちらこそありがとう!」
そんな感じでこの日は解散。
日は変わり、翌日の夜。
「こんばんは」
「あっ! 白刃さん良かったら唐揚げ作ったから持って行ってよ!」
「え、昨日カレー作ってましたよね?」
「唐揚げカレーにしたくて!」
「美味しそうですね……!」
きらりと目が輝いたのを見逃す機会が減ったことで、こちらからも提案を出せるようになってきた。
「良かったら食べてく?」
「ええと、良いのですか?」
「もちろん! いつもおすそ分けしてくれてるんだし!」
「……ありがとうございます。是非、お供させてください」
二日目のカレーが美味しいのは当たり前だが、それにトッピングが付いているのなら味はさらに倍増だろう。
僕の家でテーブルを囲み、夕食を共にする。
その場で他愛ない話が持ち出されるのは、至極普通の事である。
「和士君、自分より身長の高い人か低い人、どちらの方が接しやすいですか?」
「身長? んー、高ければカッコいいなぁと思うし、低くても安心感はあるし。けど接しやすいで考えるなら、低い方なのかなぁ。自分より高いと『おお……』ってなるよね」
「確かに。気持ちは分かります」
「あれ、白刃さんも低い人の方が接しやすい?」
「それはまぁ、背の高い人を前にすればさすがに怖気づきますよね」
「あなたが……!?」
「私を何だと思ってるのですか……。百五十センチの女ですよ? もっと背の高い男の人を前にすれば赤子同然です」
百五十という数字を聞いて驚く。背筋はいつも伸びていて姿勢がよく、あまりにも威風堂々としている所為か実感が湧かない。
「もっと高いイメージがあった……百六十ぐらいな」
「わりと低いですよ」
「立ち振る舞いだけで変わるものなんだなぁ……」
この日は一緒に唐揚げカレーを食べて、解散した。
さらに翌日。放課後の帰り道にあるスーパーで買い物をしていたら白刃さんとばったり出くわした。
それぞれの部活で学校を出る時間がずれる事はあるが、買い物をするスーパーの中で出会うことはよくある。
「今日は果物がお買い得ですよ」
「やった、なにか買っておこうかな」
耳寄りな情報を彼女からゲットした僕は果物コーナーへ足を向けた。
メロンやキウイが安いため、財布事情と食欲に相談しながら黙々とにらめっこして悩む。
「和士君は大きい方が好みですか?」
「うわびっくりした!? 着いて来てたんだ……」
「すみません、驚かせて」
「い、いや大丈夫」
意識の外から声をかけられると、非常に驚くのでほどほどにしてほしいのが本音。
存在しないと思い込んでいる場所から音があると、心臓に悪い……。
「それで」
「ん?」
「大きい方が好みですか?」
彼女は買い物カゴを両手で前に持ち、腕を寄せ付けてスタイルの良さを強調するような姿勢で居る。何故か真剣な目をしている気迫に押された。
「え、えっと、果物の話ですよね……?」
「はい、果実の話です」
「お、大きさより中身が美味しい方が好きかなぁって……」
「ほう」
軽く半ギレしているような声色であった。待って、何か良く分からんが怖すぎるッ!?
「ち、小さくても美味しい物ってあるじゃん!? むしろ小さいから栄養が詰まってて美味しい物もあるしさ! そういう果物の方が好きだよ僕は!」
何に対して弁明しているのかも分からないが、取り繕うよう説明する。
「……難しいことを言います」
「え? な、なんて?」
小声で呟いた彼女の言葉を聞き逃してしまった。
「見た目を綺麗にするのはあとから幾らでもできますが、中身の美味しさは最初から真心を込めないとできないという話です」
「……んん?」
「ふふふふ、すみません独り言です」
独り言にしてはあまりにも意味こもってません?
そんな風に思いながら、くるっと背中を向けてレジへ向かう白刃さんの姿を目で追った。
……今日は不機嫌な日だったのだろうか……?




