表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
クールな白刃さんはデレで殺す  作者: アオカラ
第二章 二人の想い
33/81

第33話 独白


 和士あきとが帰っていったあと、美銀みしろは玄関の鍵を閉め、寝室へと向かった。

 机に置いてある絵を描く用の液晶タブレットに向かい、ペンをとる。


「どうやって勝ちましょうか」


 それは独り言であった。

 白刃美銀しらはみしろという人間は一人で絵と向かい合う時、自身の胸中がふつふつと湧き出て漏れる。それは昔からの癖であり、絵を描く時は自然と己を見つめ直すという習慣でもあった。


「私は、勝てるのでしょうか」


 あなどっていた。見くびっていた。

 それは、御船和士みふねあきとという大好きな男の子に向けてさんざんアピールし、ストレートに好意をぶつけていたのに、なびく気配を見せない本当の理由が『彼の中にまだ想い人が残っている』だったから。

 その女の子が、一体どんな人であったのかは分からない。これから知る機会はあるけれど、現時点では負けている。


 美銀みしろは筆を走らせる。

 描く絵のテーマは「喜怒哀楽」

 美術部提出用の課題であり、美銀みしろは今の想いを代弁するよう液晶のガラスと向き合う。

 彼と話せる喜び。無茶をした彼への怒り。辛い過去を持つ彼への哀れみ。彼と楽しく過ごす日々。


 全ての感情を一つの絵にまとめ上げる。

 ぐちゃぐちゃに混ざる絵具にならないよう、今の私みたいにならないよう。

 目の奥に涙が滲み始める。失恋したとはこういう事を言うのかと。私は表情を殺し涙だけこぼす。

 ぽつぽつと液晶に水の塊が落ちる。これがアナログの画材だったなら、書き直ししないといけないかもしれない。デジタルの、ペンタブの良さはこういうところだと再認識する。


「ごめんなさい。女々しく泣いても、私はあなたを諦める事が……できません」


 美銀みしろは、自分には何が足りないのかを考える。女としての魅力か、性格か、器量か、体格か。それとも、相性だろうか。

 けれど、今まで本気でぶつかってきたのに、傾きを見せない和士あきとを振り返れば結果は同じ。

 彼は、とある出来事で一瞬揺れたとしても、そのまま私の方に傾いてはくれない。

 見惚れはしても、好きにはなってくれない。憧れで見てくれているだけで、恋愛対象とは違う。

 その原因は、明白だ。亡くなってしまった忘れられない女の子が、彼の心の中で()()()()()()()から。


「最終目的を、変更しないといけないのかもしれません。『あなたを惚れさせる』のではなく、『あなたの中に居る女の子を忘れさせる』に」


 ペンはすらすらと進む。

 独り言をつぶやき、目標が再確認できたことで、認めたくはないが心がスッと晴れやかになる。


「私は、どんな手を使ってでも、あなたの中に居る女の子を殺します」


 物騒な言葉で決意する高校生の女の子の表情は、歪であった。

 目は笑い、涙でほほを濡らし、眉間にはしわが寄り、口元は微笑ほほえんでいる。

 まるで「喜怒哀楽」をたった一人で同時に表現してしまったように。


 白刃美銀しらはみしろという女の子は、感情が無いわけではない。

 むしろ彼女は機敏過ぎる心の持ち主であるため、様々な情報を受け止め読み取ってしまう節がある。


 彼女が「殺す」と不穏な言葉を使い名指しで人を攻撃する事など、異例であった。

 それぐらい和士あきとを想っているだけでなく、彼の心の中で生きている女の子に対しても、彼女は「申し訳ない」と思えるだけの、優しい人間である。


『あなたを殺してでも、彼を奪おうとする私を許して』


 心の底から言いたい叫びは、結局口には出さず心の奥深くにしまうだけで終わる。

 山登りした今日は、「和士あきとに好きになってもらう」というゴールに近づくための道のりを知って、終わりを迎えたのだった。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
★で評価をしていただけるとありがたいです

ブックマークの方もよろしくお願いします
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ