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クールな白刃さんはデレで殺す  作者: アオカラ
第二章 二人の想い
31/81

第31話 マイナス×マイナス=


「いやー今日はありがとうな! 楽しかったぜ!」

「こちらこそだよ」

「はい、楽しかったです」

「あたしも、割りと気持ちよく眠れたわ」


 夕方、駅のホームで僕らは楽しくおしゃべりしながら、電車が来るのを待っていた。僕と白刃さんは一緒に帰るが、カズは自転車で姫はバスとのこと。


「特に弁当はマジで美味かった!」

「うん、あたしもそれは異論ない。二人ともありがと」

 いつもにこにこしているカズはともかく、珍しく笑っている眠り姫を見てドキリとする。ギャップに弱いな僕。けれど喜んでくれたことが何よりも嬉しくて、笑みが零れる。


「いやぁ、無理してよかったよ」

「良くないですけどね」

 ちくっと白刃さんからツッコまれる。姫とカズも続く。

美銀みしろ、御船をちゃんと家まで送ってあげてよ?」

「そうだぞ、あきと反省してないぞ」

「そ、そんなことないよ! 反省してます! はい!」


 むしろ君らが体力お化けなんだよなぁ……。


 姫がスマホを開いて時間を確認し、立ち上がった。

「あたし、バス来るからお先に」

「おー、また学校でな」

「またね、姫」

 ひらひらと手を振ってバス停へと向かう姫は、数歩歩いたところで立ち止まり、振り返って僕を見る。


「あー、御船」

「え? どうかした?」

「これ、舐めて帰りな」


 ぽいっと僕の方に小さなものを投げられる。何とかキャッチ、それは個包装されている塩タブレットだった。


「じゃね」


 そう言って眠り姫は帰っていった。


「あー、なるほど」

 カズが腑に落ちたように頷いている。

「えっ? なにがなるほどなの?」

「あきと、お前川で休憩した時まで、お茶しか飲んでなかっただろ?」

「え、そうだね」

「そりゃあバランス崩れるわ。俺もそこまで気が回ってなかったし、むしろ謝りたいぐらいなんだけども」

「私も、そこまで考えていませんでした。他人の身体のことになると、分かり辛いものですね」

 カズと白刃さんが何故か申し訳なさそうにしているのを見て、聞き返してしまう。

「えっ? えっ、どういうこと?」


「いいかあきと? 運動時にお茶()()は厳禁だ。塩分とか諸々の栄養が足りなくなる」

「……あっ」

「白刃はスポーツドリンクを飲んでたし、姫は水だけ飲んでるようで、飴とかで塩分も摂ってる」

「そ、そっかぁ……」

 当たり前のようで、抜け落ちていた体の常識。いつもなら気付く事に気を回せていなかったのは、きっと疲労も溜まっていたという証拠なのだろう。


「ま、大事に至らなかっただけ良かったさ。今日は送ってくれる友達もいるしな!」

月見里やまなし君、聞いたところ私は『通い妻』と噂されているらしいのです」

「おお! じゃあ今日の白刃は『送り妻』だな!」

「お二方、なに不埒ふらちな事を言っておる?」

「出た! あきとぶし!」

「『武士』と『節』のかかった言葉遊びですね、やっぱり月見里やまなし君はセンスあります」

拙者せっしゃ愚弄ぐろうされておるのか? のう?」


 わははと儂を見て笑うカズ。解せぬ。

 いかん、思考まで先祖返りが起こっておる。


 そうこう話しているうちに電車の到着を知らせるアナウンスが改札内から聞こえた。

「おっ、じゃあ二人とも気を付けて帰れよ!」

「うん、今日はありがとう」

「こちらこそ! 山の魅力が少しでも伝わってくれたなら嬉しいぜ!」


 ぐっと親指を立ててサムズアップ。

 駅のホームに入っていく僕らを、カズは改札の外から見送ってくれた。

 電車へ乗り、こちらに手を振ってくれる彼をガラス越しに見ながら呟く。


「羨ましいなぁ」

「彼がですか?」

「いや、カズの性格。というか、在り方が」

「ふむ」

「ああいうポジティブで優しい人になろうと思っても、なれない気がする。だから、羨ましいし、尊敬しちゃうかな。ネガティブな僕には、眩しい人だよ」

 動き始めた電車の中で、僕もカズへ向けて手を振る。


「プラスかマイナスは、選べます」

 隣で静かに呟いた彼女の言葉が、耳に入る。

「何かに憧れるなら、それはもう己の意志です。だからきっと、彼の在り方に憧れるなら和士あきと君もなれますよ」

「……なれるかなぁ?」

「なれますよ。間違っていたと思ったのなら私が責任を取ります」

 カズの姿が豆のように小さく遠くなり、白刃さんは席に座る。そして隣をポンポンと叩いて、座るよう促される。


「……はは。白刃さんに色んな責任負わせちゃうなぁ、僕」

「借金をしているのですから、貸し手と借り手は一蓮托生ですよ」

「……クールジョークですよね?」

「さあ?」


 ふふふと口元を隠して不敵に笑う彼女に、やれやれと思いながら。

『借金』なんていう大袈裟な表現でもしないと、僕が言い出し辛いと気遣ってくれているのなら。

 彼女自身が場の空気を茶化す為に、全てのマイナスを受け入れているのなら。

 白刃美銀しらはみしろという女の子は、負の極致を通り越したすえのポジティブ思考なのかなとすら、思うのであった。

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