第30話 我ら、頂きにて友情を誓おう
「おー! すごい良い景色!」
「今日は天気も良いし空気も澄んでるからな! 海まで見えると思うぜ! ほら!」
カズが指さした方向を見て、太陽光の反射でキラキラと煌めいている宝石のような海に見惚れる。
それは僕だけではなかったらしく、白刃さんも目をきらきらさせていた。
「綺麗です」
ぽそりと一言呟く彼女。
僕はこそっとカズと姫に告げ口。
「見て、あれが白刃さんの『最上級に喜んでいる時の目』だよ」
「「いや、わからん」」
「なんでぇ!?」
「あきと、よくそんな敏感に察知できるな」
「そうだよ、相手の事よく見てないと分からないレベルの話じゃん。のろけか?」
「のろけ!? 違うって!」
口を揃えて同意してくれなかった二人に対し、僕はしょんぼりする。
「さて、お昼ごはんにしましょうか」
白刃さんは途中から僕の代わりに持ってくれた鞄をベンチの近くに置き、中身を取り出し始める。
「おー! 腹減ったぜ!」
「あたし、まだ御船と美銀の作ったご飯食べたことないから、わりと楽しみ」
「今日は結構自信あるよ! なんせ白刃さんも手伝ってくれたんだからね!」
ふふんと胸を張るが、ぴしゃと冷たい視線が刺さる。
「誰かさんが無理した分、美味しいでしょうね?」
「ひえっ……!」
「御船! 謝れ! 前言撤回はしなくても良いからとりあえず美銀に謝れ!」
「そうだぞあきと! これ以上逆鱗に触れるな!」
「あ! え、その! 申し訳ありませぬ!」
武士道精神がほんのちょっと味方をしに来てくれた。それぐらい緊急事態らしい。
「……ジョークですよ?」
何をそんなに焦ってるんだい? とでも言わんばかりの不思議そうな顔で微笑んで、言った。
「お前のジョークは分かり辛いんだよぉぉ!!」
全く持ってその通りと言わんばかりのツッコミを、姫はしてくれた。
そんな風にわちゃわちゃ楽しくおしゃべりしながら、皆で手際よく飲み物や紙皿の準備をしていく。広げた弁当箱、いや重箱の中身は宝石箱のように美しく、彩り鮮やかな景色である。お正月のおせちとまではいかなくても、この豪華さは高校生のピクニックで用意するものとしてはあまりにも段違いだろう。
「「すげええぇぇー!?」」
二人してすぐさまスマホを取り出し、パシャパシャ! と写真を撮り始める。
僕と白刃さんは予想以上の反応が返ってきた事に喜びを隠しきれず、軽く見つめ合ってにやと笑った。
「唐揚げ! 卵焼き! 煮物! これはきんぴらか!?」
「ハンバーグ……コロッケ……サンドイッチ! 洋風と和風が段で分かれてる……!」
「サラダもありますよ」
そう言って白刃さんがカップに小分けしたサラダとドレッシングも差し出す。
「オシャレかよ」
姫らしいツッコミだ。だが彼女は洋食が好きだとカズから聞いていただけあり、テンションがかなり上がっているようで笑みが零れている。
「なぁなぁあきと! これっておにぎりなのか!?」
「ああ、それは『おにぎらず』だよ」
「おにぎらず!?」
「おにぎりより簡単に作れて、断面が切れて中身が見えてるからお弁当としても良いんだ」
「確かに! 普通のおにぎりの中の具って分からないもんな!」
「これはレタス焼肉、こっちはほうれん草卵とじ、そっちはロコモコ風、そっちは塩サバだね」
「う、美味そう……!」
二人はもう限界みたいだ。
目をきらきらさせて、涎でも垂れてきそうなほど口をぽわーっと開けたまま、僕らの言葉を忠犬のように待っている。
鏡を持って見せてやりたい、今の君たちの目がさっき言った「最上級に喜んでいる時の目」だよ。
白刃さんと目を合わせ、頷き合う。
「「どうぞ召し上がれ」」
「「いただきますッ!」」
二人はパンっ! と音が鳴るほど豪快に手を合わせる。さすが体育会系……。
「大成功だね」
「ええ。和士君、頑張りましたね」
「それは、お互い様だよ」
「本当ですか? 今日の朝、作りながら私の仕事量が妙に少ないと思っていたのです。そこで気付くべきでした」
「大丈夫、ご飯を食べたらすーぐ回復するよ。それに、僕もともと眠る時間は少ないんだ」
「そうなのですか?」
「うん、眠りが浅いというか、長時間寝ていられないんだよね。だから4時間ぐらいでも、体力の方は問題ないさ」
「……何か原因があるのですか?」
窺うよう話しかけられる。彼女の方は見ず、山頂からの景色に視線を移したまま、続ける。
「なんか、頭が動いていないと落ち着かないんだ。だから夜も、自然と眠くなるまで時間がかかっちゃうんだよね」
ぱくっと卵焼きを食べる。白刃さん作のそれは、程よく出汁が効き自然と甘く、美味しい。
「……ひとつ、聞くべき順番を飛ばして聞いてしまいました」
「えっ?」
「そうなってしまった原因が、あるのですよね?」
核心に迫る質問をされる。心臓手前に近づかれる感覚。しかし今日のそれは、普段の白刃さんが持つクールさにくらくらする類ではない。
カッコ良さにドキドキするのではなく、焦燥によるどきどき。
何を言ってるのかと思い、目線を彼女の方へ向けてしまう。
その刹那。
目を、見てしまった。
目を、見られてしまった。
隠せない、隠し通せない。そして、僕がそう思った事も彼女に悟られる。
「……あはは、いやぁ……」
「……すみません。言い辛い事でしたら、構いません」
「いや、白刃さんが僕のことを心配して言ってくれてる事も分かるからさ。そこまで考えてくれる人になら、僕も、なんというか……」
一瞬口籠るが、意を決する。
「……うん、打ち明けてみても良いかなって思うし。いや、聞いてもらいたいだけなのかもしれないけどさ……」
僕の願いを聞き届けると、彼女は柔らかく微笑み、こちらの目を見て言う。
「はい、私で良ければ話し相手になります」
「ありがとう……! ああでも、ちょっと色々説明しないといけない事もあるから、また落ち着いてから」
「ええ、分かりました」
軽い約束だけ交わし、僕らは食事を再開する。
「なあ白刃! これは白刃が作ったのか!?」
「ああ、それは下ごしらえが和士君で私が調理しました」
「ってことは二人の共同作業だ! すげー美味いぞ!」
「ふふ、それは良かったです」
カズの食べっぷりは見ていても嬉しくなるぐらいで、僕は自然と笑ってしまった。
だからその時、視界の端にチラッと映った眠り姫が、僕のことを悲しそうな表情で見つめていたように思ったのは、きっと錯覚。




