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クールな白刃さんはデレで殺す  作者: アオカラ
第二章 二人の想い
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第28話 弛緩


「山と言えば?」

「川」

「古き良き合言葉かよ」


 カズのフリに僕が誠心誠意を込めて返したボケを、眠り姫がツッコんでくれる。


「川と言えば?」

「文明です」

「歴史の授業じゃねーんだよ」


 続けて放ったフリには白刃さんが答えて、眠り姫がツッコむ。

 のほほんとした会話を繰り返しながら山を登り、約一時間。

 暖かな日差しに涼しい風が木々の間を通りさわさわと気持ちの良い音を奏でる。心まで穏やかになるような天気だった。

 勾配の緩い山はかなり楽な道のりで疲労感が増すことも無く、とても歩きやすい。カズのチョイスは間違いないようだ。


「良いところだね」

「だろ? けどおすすめポイントはもう一つあってな」

「へぇ、どこにあるの?」

「まっ、それは着いてからのお楽しみってやつだ!」


 登山用リュックにクーラーボックスまで肩にかけているカズは、それでもなんのそのといった具合でずんずん進む。体力お化けだ。


「えっ、あの絵師さんの会場本持ってるのっ!?」

「はい。ちょうど一年前に出されて、委託されていないあの同人誌です」

「あ、あの、あたし実はその本マジで欲しかったのに手に入れられなくてさ。その……こんなお願いしてもいいのかって感じなんだけど……」

「大丈夫ですよ、また今度家でお茶会でもしましょう」

「白刃……! あ、ありがとう!」


 後ろの方では何やら楽しそうな話を白刃しらはさんと神来社からいとさんがしている。

 どうやら共通の趣味があるみたいだ。正直、彼女ら二人は強い接点がないものだと思っていたのだけど、普通に話せるほど仲は良いみたいで安心する。


 そうやって前は男二人、後ろは女二人で歩き続け数十分。

 山中の休憩ポイントとなる、綺麗な小川へ到着する。


「よーし、休憩しようかー!」


 カズの号令を受け、僕らは川の近くにある木のベンチに腰掛ける。

 雨も嵐も受け、それでも自然にずっと居続けていたことが分かるような、年季の入ったベンチ。それがどことなく、優しい空気を醸し出している。


 カズはクーラーボックスを開ける。中にはペットボトルがたくさん入っていた。これを担いでいたのかカズは……。


「飲み物、好きなの取っていけよー? ジュースもスポドリもお茶も水もあるぞー」

「準備良いなぁ……」

「誘った側だしこれぐらいはな。ほい、姫は水だよな」

「ん」


 カズはペットボトルを眠り姫に軽く投げ、彼女はそれを片手でキャッチ。

 カッコイイ……長年の相棒みたいだ……。


「白刃は何にするー?」

「私は、スポーツドリンクで」

「あきとはー?」

「じゃあ僕はお茶を」

「おけい、持ってけドロボー」


 飲み物を受け取り、みんなで一服。

 川のせせらぎを聞きながら大自然を見つめ、心が山に溶け込みそうな気分になる。休憩スポットであるここには、僕ら四人しかいない。どうやら今日は人があまりいないらしい。


「良い場所だねぇ……」

「あきと、おじいちゃんくさいな」

「武士の心が今この時だけ、解されているのでしょう。そっとしてあげた方が良いです」

「カズと白刃も大概だけどね……。趣味が年増だよ」


 心がゆるゆるになり、でろんでろんに溶けている僕。それを面白そうに見てくるカズ。僕の精神をよく理解してくれている白刃さん。興味無さそうに目を閉じながら話には乗ってくれる眠り姫。

 この四人で集まるとカズを筆頭にもっと騒がしくなるかと思っていたけど、みんな自分のペースを大事にするし、そもそものテンションが似ている節があるみたいで、すごく居心地が良い。


「あっ、キツネだ」


 カズがぽつりとそんなことを言ったから、僕らの視線は一気にカズが見ている先へ集中する。

 川を挟んだ岸辺で、水をぺろぺろと舐めて飲んでいる橙色のもふもふがいた。


「ほ、ホントだ、きつねだ……!」

「すごいです、もふもふです」

「か、可愛い……!」

 僕、白刃さん、姫は思わず感想が漏れてしまう。


「近づいても大丈夫なのかな? できるだけ近くで見てみたい」

「あー、まぁ川挟んでるしこっちの岸辺から見る分には良いと思うぜ」

「分かった!」

 経験者のカズからお許しももらった事で、僕ら三人はゆっくりと川岸に近づき、小さい子と目線を合わせるようしゃがみ込む。

 向こうのきつねさんは気付いてこちらを見てきたが、一瞥いちべつするとまたぺろぺろと水分を補給し始めた。


「え、すごい人慣れしてない?」

「うん、思った。可愛い」

「普通なら目が合った時点で逃げ出しそうですものね」

「山道だから人を見る機会が多いのかな?」

「かもしれませんね、きつねさんは人に慣れているのかもしれません」

「狐耳……尻尾……可愛い……」


 だめだ、眠り姫が完全にほだされている。可愛いしか言えなくなってる。

 ただただぼーっと眺めていたら、きつねがあくびするように大きく口を開けた。


「くぁーん」


 妙に甲高い犬のような、えらく落ち着いた猫のような、そんな鳴き声だった。


「えっ! 今! 鳴いたよね!?」

「ええ、鳴きました。きつねってあんな感じで鳴くんですね」

「すごい、『コンコン』じゃないんだ……!」


 ってあれ?

 今一番きつねにお熱の眠り姫が何もリアクションをしていないことに気が付き、ふと隣を見る。

 そこにはしゃがみ込みながら目を閉じ、今まで見たことないんじゃないかってぐらいの静かな笑顔で真っ白になっている眠り姫がいた。


神来社からいとさんが灰に!?」

「これは燃え尽きましたね、サービス精神旺盛なきつねさんに私達の仲間がやられました」

「無理、可愛い……」

「最後の言葉がそれってやばいよ!」


 そんなこんなでわちゃわちゃお喋りしていると、きつねは尻尾を軽やかに振りながらゆっくりと来た道を戻っていった。


「去り際まで優雅でかわいいとかホント無理。尊死ぬ」

「死んじゃダメだよ姫! 姫が死んだらツッコミ役どうするの!?」

御船みふね、あとは任せた。あたしの命を吸って」

「カズが迎えに来るまで生きないとダメだって!」

「呼んだー?」

「読んだけど呼んではいない!」


 後ろから飛んできたカズの言葉に姫流のツッコミで返す。


「ふっ……御船、あんたセンスあるよ。大丈夫……あたしが保証してやる……」

「ひめー!」


 なんとも下らない茶番を繰り広げる僕らを見て、白刃さんは口元に手をかざしながらくすくすと笑っていた。


「ふふふ、二人とも面白いですね」

 白刃さんが笑っているのを聞いて、目を覚まされたかのように姫は灰から一瞬で色を取り戻す。

「いや、白刃、あんたそんな風に笑えるのかよ」

「笑えますよ? ロボットでは無いのですから」

「なんかそういうとこ、一周回ってロボットっぽいよな。皮肉が通じないくせに皮肉言いまくるんだから」

「あらあら、私褒められてます?」

「……ははっ」

 姫は呆れたように笑って、白刃さんと一緒に立ち上がる。


「さー休憩はこれぐらいにして、行きますかー」

「はい、行きましょう」


 そんな二人に続くよう僕も立ち上がろうとした時。





 ぐらり。





 視界が揺れ、身体のバランスが崩れる。

 二人が喋る声や自然の音、それらが一瞬だけ遠のく。

 支えるために足の力を入れようとしたのに、川砂利の所為か足を滑らせる。


 水面が顔面に迫る。



 ばしゃっ。



「御船!?」

和士あきと君!」


 普段落ち着いている彼女らが出した声は、いつもより悲痛で高い音だったから、耳に残った。

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