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クールな白刃さんはデレで殺す  作者: アオカラ
第一章 二人の数奇な出会い
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第23話 おかず交換「出来立て編」


 ご飯を作り過ぎてしまう場面というのは、料理に慣れていてもよくある。例えば、夜に食べるだけで良かった分量を次の日、さらにその次の日まで残ってしまうほど作ってしまうことも。

 よく作っている料理でも「材料を使い切りたいな」とか「一度にまとめて作っておきたい」なんて邪念が混じるか、もしくは料理中に気を抜いていたか。僕の場合、今回は後者。


 基本的にご飯は出来立てが美味しい。二日目以降が美味しい料理も色々あるけれど、今回は例外として外す。

 つまり、今白刃さんの家のリビングにずらりと並べられた出来立てのおかずたちはどれも最高に輝いていた。

 あまりの眩しさと美味しそうな香りに脳が揺さぶられる。


「絶対おいしい……これは食べなくても分かる……」

「そう言わずに是非食べて下さい、食品サンプルでは無いので」

「僕白刃さんの作った食品サンプルなら口の中で噛んでから気付きそう」

「お腹を壊しますからやめましょうね。けどご飯の見た目で材料がお菓子、みたいな作品はありますよね、あれを目指してみましょうか」

「軽く芸術作品の領域に突っ込んでいるあれを!?」

「練習だと思って」

「なんのですか!?」


 すごくレベルのおかしい話であるはずなんだけど、さも当然のように言ってる彼女を見ると冗談か本気か判別しづらい。まぁ、多分本気だろうけど……。


 僕たちが住んでいるこのマンションは間取りが1LDKであり、リビングがかなり広めであるため大きいテーブルやテレビを置けるスペースの余裕が比較的にある。僕の場合はテレビやソファーを置いて使えるところは使う精神で物を置いている。

 逆に白刃さんの部屋のリビングにはテーブルとテレビぐらいしか無く、部屋の隅の方にぽっかりと何かが置いてあったようなスペースがあった。いつもは何か置いているのだろうか?

 しかし今はテーブルに並んでいる料理に興味を吸い寄せられる。


「すごいなぁこのレパートリー……。肉じゃがに、きんぴらごぼうに、これはかぼちゃの煮物……?」

「あんかけそぼろ煮ですね。こっちはほうれん草のおひたしで、こちらはサバの味噌煮です」

「こんな美味しそうなものだと、僕のあげる物に見合わない気がするんだけどさ……」

「いえいえ、気にしないでお好きな物を言ってください。ちなみにあきと君は何を持ってきてくれたのでしょう?」

「えーと、ハンバーグです」

「ハンバーグ……!」


 大変嬉しそうな声色をしてますけれど顔が怖い、力入り過ぎて恐いです白刃さん。それ僕の前じゃないと通用しないってこと、今のうちに言っておいた方が良いんでしょうか……?


「ソースは別のタッパーに入れているから、食べる時に使ってね」

「分かりました。待っててくださいね、私の作ったおかず全部詰めますので」

「待って! 全部詰めたら白刃さんの分無くなるから!」

「でも」

「でもじゃありません!」

「あきと君のおかずに見合うことを考えたら、これぐらいしか選択肢は無いのです。止めないで下さい」

「はい! 白刃さん! 僕でも食べられる量に限界はありますので良ければ全品を少しずつもらえますか!?」

「分かりました。これから毎日そちらのお家にご飯を作りに行きます」

「分かってないよねぇ!? 会話! 意思疎通して!」

「私があきと君を満足させるお話ですよね?」

「僕が満足し過ぎるほど白刃さんに苦労させるわけにはいかないってお話だよ!」

「あら、ご飯を作ってくれることはやぶさかではないと受け取って良いのでしょうか?」


 ああ、全くあなたは!

 ポジティブシンキングの強さと欠点を痛感したよ。なんでこんなに押しが強い在り方ができるのさ!

 呆れてぐうの音も出てこない僕とは違い、僕のお腹は情けない声を出して今が夕食時であることを知らせてくる。そしてその知らせを彼女にも聞かれる。


「はい、今日の分の返済ができましたね」

「はっはー! 皮肉がスモーキーに利いてて最高だよ!」

「今日はテンションが高いですねあきと君、誰か良い人と出会えましたか?」

「……まぁ、仲の良い人達とは会ったけれども」


 一人、顔見知り程度の人もいたけど。


「良かったですね。楽しそうなあきと君が見れて嬉しいです」

「恥ずかしがってるの間違いじゃなくて?」

「ふふ」


 不敵に笑いながら、白刃さんはプラスチック容器を食器棚から取り出して、おかずを分けて入れていく。あえて言葉にせず返してくるあたりが本当に恐ろしい、この人に敵う気がしない……。


 料理の入った容器が五つほど積み重なって入れられた紙袋を渡され、何となく申し訳なくなる。エビが鯛に化けたようだった。エビも美味しいけど。


「あ、ちょっと待っててください」


 そう言って白刃さんは寝室に繋がっているであろうドアを開き、何かを取りに行く。完全に閉められていないドアの隙間から寝室が見えそうになって、慌ててぶんぶんと頭を振って邪念を掃う。

 そうだった、見てはいけないのだった。ありがとうご先祖様、ギリギリでその御心を僕に与えて下さって……。


 戻ってきた彼女の手には、百貨店で売られていそうな高級感のある見た目の、小さなラッピング袋があった。


「これはおまけです」

「えっ、もらっていいの? すごくお洒落な袋だけど」

「寧ろもらって頂けますか? 確かあきと君は紅茶が好きでしたよね。貰い物なのですが、良ければどうぞ」

「あ、見た目でそうかなとは思ったけど、茶葉なんだね」

「はい。紅茶の茶葉が幾つか入っているそうです」

「おお、嬉しい!」

「なら良かったです。それでなんですが、もしまた機会があれば紅茶の事を教えてもらっても良いですか?」

「ん? もちろん良いんだけど、白刃さんって紅茶は苦手?」

「好きか嫌いかと言われたら好きなのですが、あまり知らない領域でして」


 ふーむ、そうなのか。

 いや、紅茶が好きなのが意外というよりかは、あまり知らないと言ったことが驚きであった。

 知らないことがあればすぐ調べるほど知的好奇心旺盛な彼女が、濁した言葉で返してきたことに。普段であれば、「知らない」か「知っている」の二択ではっきりと物を言ってる気がするのだけど、僕の考えすぎかな?


「分かった。頂いたお茶の感想も含めてまた今度に」

「ええ、お願いします」


 夕食の時間ということで長居はせず、白刃さんには玄関まで見送りをしてもらって、僕は自分の家へと戻っていく。

 もらった料理と茶葉でホクホクとしながら、それに混ざる疑問の所為で地に足のつかない気分のまま、僕は大して距離の無いマンションの廊下を歩いていく。

 けれど結局、深く考えたのはその短い距離だけで、家に着いてしまえば白刃さんの美味しそうな料理に心が躍り、すぐ忘れてしまうのだった。

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