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クールな白刃さんはデレで殺す  作者: アオカラ
第一章 二人の数奇な出会い
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第21話 眠り姫


 ゴールデンウイーク二日目。天気は昨日と同じぐらいお散歩日和な温かい晴れ。何をして過ごそうかと朝ご飯を食べながら考えていた。

 昨日は白刃さんとこの地域を散歩してしっかりと頭の中に地図が出来あがった。それを活かして今度は僕一人で散策してみようと考えていたから、天気が同じぐらい良かったのは嬉しい。


 そういえば白刃さんと昨日買い物をしたあと家でゆっくりしていたら、携帯にメッセージが届いていた。


『今日はとても楽しかったです。あきと君には本当に感謝でいっぱいです。またお暇な日があれば遊びに行きましょう。いつでも連絡してください』

 何とも、彼女らしい丁寧なメッセージだなと思いながら僕も『こちらこそ! また遊びに行こう!』とだけ返した。


 昨日は昨日で楽しかった。けれども今日は自分のペースで遊ぼうと思い立つ。読書は基本、集中するなら家で読むのが当たり前だけど、外で読むのも意外と楽しかったりする。

 そしてやっぱり、白刃さんの紹介してくれたパン屋さんが気になってしまったのもある。天気の良い日にサンドイッチでも買って外で読書、うーむ素晴らしい。たまにはそんな日があっても良い。

 というわけで、午後は出かけることにしたのだった。


 *


「カツサンドイッチ一つとコーヒー牛乳ですね。七百円になりまーす」

「……葵先輩。バイトですか……?」

「そ。てっきり知ってて冷やかしに来たのかと思ってた」


 白刃さんが言っていたパン屋でレジ応対をしてくれたのは、家庭科部の長でありお姉ちゃんキャラである『櫻野葵』先輩だった。


「いえ、全然そんなつもりじゃなくて……」

「まぁそうだよねー、御船君はいやらしい子じゃないもんね」

「ひどくないですか。僕そんなキャラで見られているんですか?」

「ごめん、私の趣味嗜好での目線」

「良い趣味してますね」

「ふっふー、皮肉言われちゃったねぇ!」


 彼女はにこにこと笑って会話を楽しんでいる。朗らかな雰囲気だがまがりなりにも先輩であり、しかもここはお店だから何となくツッコミを入れる気が出ない。というか今日はのんびり過ごしたい気分なので、楽しい会話はこれぐらいにしておく。


「お仕事の邪魔するのもあれなんで。これぐらいで失礼します」

「はーい。ありがとうございましたー」


 買った物を袋に詰めてもらって、それを受け取ったらさっさと立ち去る。一応先輩もバイト中。その意識はしっかりしているようで、すぐ表情が仕事モードに切り替わっていた。

 バイトかぁ、すごいな。

 というか白刃さんここに来たことあるのなら、葵先輩いるの知ってたんじゃ。

 えっ、まさか知ってて教えてくれなかったんですか。

 白刃さん……。

 なんで会わない日にも恥ずかしい事を思いださせるんですか。記憶に留まる幽霊ですか。


 *


 アマリリス近くの河川敷は今日もぽかぽかとした穏やかな陽気に包まれていた。

 ちょっと歩きはしたけどここまで来て良かった。昨日は色々おしゃべりして楽しんだベンチに座り、サンドイッチとコーヒー牛乳が入った袋を隣に置いて本を鞄から取り出す。


 今日読むのはライトノベルだ。可愛いというよりは綺麗なイラストが挿絵になっていて、現代が舞台のファンタジー物で新刊だ。前々から追っている作品で、読むのを楽しみにしていた。

 ついつい焦ってしまうが、時間はたっぷりあるからじっくり読むことにする。

 周りに昨日と同様、子供が遊んでいる楽しそうな声が耳に入り、それを環境音代わりに本を開いて読み始めた。





「……ーい、あきとー?」

「……」

「あきとー、気付いてないのかー?」

「……へっ!? はい! なんでござろうか!」

「はは! なんだそれ! 武士かよー!」


 集中していて声を掛けられた事に全然気付かなかった。その所為で驚いて素っ頓狂な返事の仕方をした僕を笑いながら、ベンチの後ろで覗き込むようにいたのは、カズだった。


「あ、あれ? 奇遇だね、カズ」

「よっ!」


 僕の肩にぽんと軽く手を置き、調子良い挨拶をされる。


「何、カズの友達かー?」

「おおそうだよー。あきとって言ってさ、この前教えためっちゃ料理美味い友達!」

「へぇー、すごいじゃーん!」


 どうやら同級生らしい人達に僕を紹介される。陽キャの集まりって感じのグループで、男女が数人居てその視線が僕に集まる。


「ど、どうも……」


 空気感の違いに、どうにも居たたまれない気分になって口籠った。


「えー、何読んでるのー?」

 ギャルっぽい見た目でオシャレな女の子に持っている本を見られ、尋ねられる。

「あ、えっと、小説です」

「へぇー。あ、それ知ってる! この前アニメやってた!」

「え、マジか。なんてやつ?」

 チャラそうな男子が気になって聞いていた。

「んっとねー」


 陽キャグループは僕の持っていた本のタイトルを話題に盛り上がっていた。さすがに混ざる事はできなかった僕を気遣うようカズはこっそり耳打ちする。


「ごめんなあきと、あいつら結構ノリが強くて」

「いやいやそんな! 気にしないで」

「多分ゆっくりしてたんだよな? これからカラオケ行くとこで見かけたから誘おうかと思ったんだけど、またの機会にするか?」

「あ、うん。ごめん、そうするよ」

「おっけー。()()()()()


 突然、カズは一メートル程離れた隣のベンチに座っている女の子に声を掛けた。

 全然気配を感じなかった……。


「行かない。騒がしいところは苦手」


 同い年ぐらいの女の子が、パーカーのポケットに両手を突っ込み、目を閉じたまま怠そうな声で返答していた。


「だよなー。けどいつか行きたいからまた誘うなー」

「好きにして」


 そっけない返事をされてもカズは特に堪える事もなく、そのまま振り返って行こうとするのを何とか僕は呼び止める。


「ちょ、ちょっとカズ! あの人知り合い?」

「え、あれ? あきとは知らない? 眠り姫のこと」

「ね、ねむりひめ……?」


 誰だろう。そう呼ばれる女の子を僕はしげしげと見つめる。けれどその子は目を瞑ったままで、あまり顔から読み取れる情報が少なかった。なのでそれ以外をよく分析する。

 おさげの髪型で服装は白いパーカーにゆったりとした黒のスラックスを履いていて、ラフな格好だった。顔つきも白刃さん程ではないにしろきつめだけど、ぼんやりとした雰囲気がそれを和らげている気もする。

 小さい鞄を膝の上に置いていて、その近くには眼鏡ケースも見えた。

 あれ、もしかして……。

 ほんの少し思い当たるものが浮かんだが、一応カズに確認もかねて聞いてみる。


「カズ、確か同じクラスだっけ……?」

「そうだよ」

「いつも、寝ている?」

「そうそう、思い出したか!」

「ええっと……」


 やばい、姿は見覚えあるけど名前が出てこない!


「『神来社からいと奈津姫なつき』だよ、御船」

 眠そうな声で彼女から唐突に自己紹介され、名前と情報が一致してピンとくる。

「あ、ああ! あのからいとさん!」


 思い出した、難しいどころかすごく珍しい苗字のあの人だ。白刃さんと勝手に決めたランキングでトップになったその人。いつも時間があれば寝ていて、いや授業中すら寝ている問題児。

 けれど授業中、先生にあてられてもちゃんと答えるし、課題も忘れてないし。授業態度と体育の時だけダルそうにしている以外は普通に真面目な高校生の女の子。


「カズ、あんたもう行きなよ。友達待たせてるでしょ」

「お、そうか? じゃああとはよろしくなー!」


 神来社さんは自分が説明すると言わんばかりに促し、そう言われたカズは嬉々として盛り上がっていたグループの輪に戻り、この場を離れていった。

 そして二人きりになる。いや、実際カズに話しかけられるまで元々二人きりだったのかもしれないけれど。


「御船」

「あっ! はいなんでしょう!」

「あたしは寝たいから、ざっと要点だけ説明する」


 ちらっと目が合い、その奥から不思議と強い意志を感じた。

 睡眠のためなら命すら捧げそうな勢いの、真剣な眼差しだ。


「なつきって名前の『き』が漢字の姫で、いつも眠っているからあだ名が『眠り姫』んで最近はそれもめんどくなって『ひめ』って呼ばれてる。御船も好きなように呼んでいいから」

「あっ分かりました、神来社さん」

「んじゃ、そっちも読書楽しんで。あたしは寝る」


 そう言って眠りの呼吸のリズムになっていき、宣言通り本当にあっという間に寝息をたて始めた。正に眠り姫……。


 この場から離れた方が良いんじゃないかと思慮してしまうが、ガチ寝に入っている彼女を見ると人が居ても居なくてもきっと一緒なんだろう。そう思うと彼女が寝入る前に告げた言葉の真意は、「遠慮するな」なのかな……? 

 受け取った意味が間違ってなければ良いのだけど。 

 寝息も聞こえないぐらいの微妙な距離感で、それすらも環境音にして僕は再び本の世界に入っていく。

 実は僕も、この場所がすごく気に入っているから離れたくないという思いがあったわけで。きっと眠り姫にとってもここは絶好の昼寝スポットなんだろう。

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