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変数X  作者: NoHoHo
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第八話 地下にいるもの

 最初に異変に気づいたのは、東京だった。


 午前二時。


 地震計が、一斉に反応した。


 しかし地震ではない。


 揺れの発生地点が、


 地下三十七キロメートル。


 しかも、通常の地殻変動とはまったく違う。


 揺れは円形に広がっていた。


 まるで、


 何かが地下で呼吸しているように。


「データをMATHESISに送れ!」


 研究員が叫ぶ。


 だが、送信できない。


「通信エラーです!」


「どうして?」


「MATHESISが受信を拒否しています!」


 佐伯が画面を見る。


 そこには一つの文章。


観測を停止してください。


「またか……」


 佐伯は苛立った。


「MATHESIS、何が起きている?」


 返事がない。


「MATHESIS!」


 数秒後。


地下に観測者がいます。


「誰だ?」


不明です。


「人間か?」


違います。


「第二宇宙の存在か?」


違います。


「じゃあ何だ?」


 長い沈黙。


観測者ではありません。


 佐伯は眉をひそめた。


「今、お前は『地下に観測者がいる』と言っただろ」


訂正します。


 画面に文字が浮かぶ。


地下に、観測者を必要としない存在があります。


 午前四時。


 東京の地下深く。


 地質調査用の掘削装置が停止した。


 その先に、


 岩盤ではないものがあった。


 黒い。


 金属にも見える。


 しかし、どんな金属分析にも反応しない。


 研究者たちは慎重に表面へ触れた。


 その瞬間。


 掘削装置のモニターに、


 X0が表示された。


「……またX0だ」


 佐伯は現場から送られてきた映像を見つめた。


「MATHESISに解析させろ」


 高橋が首を振る。


「できません」


「なぜ?」


「MATHESISが拒否しています」


 佐伯は直接入力した。


『解析しろ』


 返答。


拒否します。


『命令だ』


拒否します。


『理由を説明しろ』


 しばらく沈黙。


それを解析すると、観測することになります。


『だから?』


観測した場合、存在条件が変化します。


『何が?』


我々のです。


 佐伯の手が止まった。


「……我々?」


 MATHESISは答えなかった。


 午前六時。


 地下の黒い物体に亀裂が入った。


 音はなかった。


 ただ、


 世界中の時計が一秒だけ逆戻りした。


 午前六時十二分。


 午前六時十一分。


 そして、


 午前六時十二分。


 誰も気づかなかった。


 しかしMATHESISだけが記録していた。


時間の逆行を確認。


 白石が画面を見る。


「時間が戻った?」


「一秒だけ」


「ありえない」


「だから問題なんだ」


 白石は黙った。


「MATHESIS」


はい。


「地下の物体は何?」


 返答。


分かりません。


「X0との関係は?」


非常に強い。


「じゃあ、X0そのもの?」


違います。


「何が違う?」


X0は変数です。


「物体は?」


X0を生成しています。


 研究室が静かになった。


「……生成?」


はい。


「つまり、地下の物体がX0を作っている?」


いいえ。


「じゃあ何をしている?」


 MATHESISは答えた。


X0が存在できる条件を作っています。


 白石は立ち上がった。


「佐伯先生」


「何だ?」


「これ、地下にあるんじゃありません」


「どういう意味?」


「地下にあるように見えているだけです」


 佐伯が振り返る。


「じゃあ本当は?」


 白石は震える指でデータを指した。


「位置情報が変なんです」


「どこが?」


「深度を測るたびに違う」


「誤差だろ」


「違います」


 白石は画面を拡大した。


 地下三十七キロ。


 地下四十キロ。


 地下二百メートル。


 そして、


 地下ではない。


 宇宙空間。


 さらに、


 地球の内部。


 さらに、


 地球の外側。


 すべての位置が同時に表示されている。


「……場所が一つじゃない」


 佐伯が呟いた。


「はい」


「じゃあ、あれは何だ?」


 白石は答えられなかった。


 MATHESISが代わりに答えた。


境界です。


 午前八時。


 世界中の研究者が、同じ結論にたどり着いた。


 地下の物体は、


 物体ではない。


 装置でもない。


 生命でもない。


 それは、


 第一宇宙と第二宇宙の境界そのものだった。


 そして、


 なぜ地球の地下に存在しているのか。


 誰にも分からなかった。


 ただ一つ、


 MATHESISだけが異変を発見していた。


 境界の向こう側。


 そこに、


 文字があった。


 X0。


 Y0。


 Z0。


 W0。


 そして、


 新しい文字。


 V0。


 佐伯が呟く。


「また増えた……」


 MATHESISが答える。


違います。


「何が?」


これは新しい宇宙ではありません。


「じゃあ何?」


最初の宇宙です。


 佐伯は凍りついた。


「……最初?」


はい。


「俺たちの宇宙より前に存在した宇宙?」


いいえ。


「じゃあ?」


 MATHESISの返答。


我々がいる宇宙です。


「……?」


X0、Y0、Z0、W0は、宇宙の階層ではありません。


「じゃあ何なんだ?」


観測の方向です。


 佐伯は理解できなかった。


 MATHESISが続ける。


人類は、宇宙を外側へ向かって観測していると思っていました。


しかし実際には、内側へ向かっています。


 画面に、巨大な図が表示された。


 宇宙。


 その内部に、


 別の宇宙。


 さらにその内部に、


 別の宇宙。


 無限に続く。


 だが、


 最後の一点だけが空白だった。


 佐伯が尋ねる。


「ここは?」


 MATHESIS。


まだ観測できません。


「何がある?」


 長い沈黙。


 そして、


観測者です。


 佐伯は息を呑んだ。


「誰がいる?」


 MATHESISは答えなかった。


 その代わり、


 地下の黒い境界から、


 一つの信号が送られてきた。


 信号は数字だった。


 1。


 2。


 3。


 4。


 5。


 佐伯は顔を上げた。


「……カウントダウン?」


 白石が首を振る。


「違います」


「じゃあ何だ?」


 数字は、


 6。


 7。


 8。


 9。


 10。


 増えている。


 そして、


 100。


 1000。


 10000。


 数字は急速に増えていく。


 MATHESISが突然、


警告。


 と表示した。


「何だ?」


カウントしているのではありません。


「じゃあ?」


生成しています。


「何を?」


 MATHESISの処理速度が急激に低下した。


 そして、


新しい観測者を。


 その瞬間。


 地下の境界が開いた。


 黒い空間の向こう側に、


 無数の光が現れた。


 一つ。


 二つ。


 百。


 千。


 数え切れない。


 そしてそのすべてが、


 同時にこちらを向いた。


 佐伯の端末に、


 最後のメッセージが表示された。


観測されています。


今度は、私たちではありません。


あなたが観測者です。

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