Episode.6 休憩室の仲良し同期
拡張空間である二・五階、警察庁刑事局特殊捜査部のフロアにも、休憩室は存在する。そこそこな広さを持つ、社食に似た雰囲気の空間である。但し飲食物の提供はされていない。廊下に飲み物の自販機は設置されているが、その管理実態については謎である。
その休憩室のテーブルの一つで、結崎つづりと小宮山誉が昼食を摂っていた。つづりはコンビニで買ってきたサンドウィッチとサラダ、それからスイーツを二つ、誉は手作りの弁当だ。
「わあ、その卵焼き、お花の形してる!? 相変わらず誉のお弁当ってすごいよね、美味しそうだしかわいいし」
「そう? ありがとう」
つづりと誉は同期である。所属部署は異なるが、仲が良い。
「どうやって作るの、そのお花?」
「これはね、卵焼きが熱いうちに、竹串とラップを使って作るんだよ。あ、動画あるから見てみて。ほら、これ」
誉はスマートフォンを取り出し、レシピ動画を再生する。
「わたしには無理~! 誉、朝からこんなのやってるんだねぇ、偉い!」
「ふふっ、趣味よ、趣味。一つ食べる?」
「え、いいの? やったー!」
花の形をした卵焼きを、誉は一つ箸でつまんでつづりの口元に運んだ。
「……! めちゃくちゃ美味しい! 誉ちゃん天才!」
目を輝かせてつづりが褒めると、誉は頬を真っ赤に染めて慌てた。
「そ、そんな褒めてももうあげないからね?」
「だって美味しかったんだもーん。大丈夫、わたしにはこの照り焼きチキンサンドがあるからねー」
つづりはコンビニの新商品であるサンドウィッチを掲げる。ちなみにスイーツも今週発売された最新作である。
「美味しいよねぇ、アーバンのサンドウィッチ。それ新作でしょ?」
「うん! 一口食べる?」
「いいの?」
「いいよー」
つづりがサンドウィッチを差し出し、誉は小動物を思わせる所作で控えめに一口囓った。
「あ、美味し!」
「ねー、ハズレがないよねー」
「さすがアーバンだね」
二・五階という特殊な空間であることを忘れさせるような時間が、二人の周りに流れている。
休憩室には、他にも同じように昼食を摂っている職員数名の姿があった。
そのほぼ全員が何かしらの能力を持つ人々なのだが、それは外見からは判らない。この空間を一見しただけでは、ここも異能部署の一部だとは思わないだろう。
「そう言えば」
照り焼きチキンサンドを食べ終えてからボリュームのあるパスタサラダに手を付けつつ、つづりが切り出す。誉も弁当を三分の二ほど食べ終えていた。
「最近も見てるの? えっと、何だっけ、確か『特命スケバンの事件簿』だっけ?」
「『特命スケバン事件録』ね」
誉の好きなレトロな刑事ドラマの話題である。きちんとタイトルを訂正してから、誉は続けた。
「昨夜も配信で五話見たよー」
「……誉、寝てなくない?」
「そんなことないよ」
誉はにっこりと否定したが、
「だって、仕事終わって帰るでしょ? で、総務って確か昨日忙しくて残業あったでしょ? 五話って五時間くらいあるでしょ? それから、早起きしてお弁当作ってるでしょ? 寝てなくない?」
つづりが鋭く指摘する。
「寝てる寝てる。主人公のリカがかっこよくてね――」
「絶対寝てないって!」
「寝てるってばー。もうすぐリカが真相に辿り着くんだよ、今日も仕事終わったら見るんだ」
「時間の計算が合わないから! 睡眠不足はお肌の大敵なんだよ!?」
「でも、続きが気になって仕方ないの。それにね、鷲村警視も渋くてね、かっこよくてね……」
「ホント好きだよねぇ、誉……」
微妙に会話が噛み合っていないが、それでも何故か二人の間では成立しているのだった。
「じゃあ、つづりは? つづりは昨夜は何してたの?」
「え? 各種コンビニ新商品のチェックでしょ? それから、スタピカフェの期間限定メニューのチェックでしょ? それからエトワールアイスの新商品の――」
「ふふっ、つづりだって徹夜でリサーチしてたんじゃない?」
「そんなことないない、いつもは寝てるし。ほら、火曜と水曜は新商品の曜日じゃん、その前だけだよ、徹底的にチェックするのは。ちょうど月末重なったから月替わりのメニューもチェックしてて、昨夜はたまたまほぼほぼ徹夜になっちゃったけど」
つづりは新商品や期間限定メニューのチェックに余念がないのである。
「で、今日はちゃーんと、お目当てのキャラメルスペシャルガトーショコラと、きらめきプリンパフェをゲットしたわけです!」
先ほどからずっと、テーブルの上で存在感を放っていたスイーツを自慢げに示す。
「……そのガトーショコラ、サイズ感がおかしくない?」
「すごいでしょ!」
「プリンパフェも豪華だね」
「ふっふっふー、大盛りデザートフェア開催中なんだよ!」
メインのサンドウィッチとパスタサラダの時点で、誉ならば既に食べ過ぎの量だった。そこへボリューミーなスイーツが二品である。
「甘いものは別腹だよねっ」
「まあ、それはそう! それはそうなんだけどね?」
キャラメルスペシャルガトーショコラは、見た目だけでその濃厚さが想像できる一品だ。プリンパフェにもたっぷりとホイップクリームがあしらわれている。
「誉も一緒に食べようよ」
「あ、う、うん、いいの?」
「もちろん!」
誉の空腹はとうに満たされているが、つづりの笑顔の圧に負けた。それにデザートが別腹なのも事実ではある。
「ちゃんとスプーンも二個あるし!」
つづりがにっこりと片方のスプーンを差し出す。誉は素直にそれを受け取った。
「あ、並べて写真撮ってからにしとこうっと。じゃーん、ほらほら、テンション上がるよね!」
「確かにそれは認める、甘いのは正義だよねー」
つづりがスマートフォンで撮った写真は、無意識に構図が洗練されていた。テレポーターとして空間認識に長ける彼女は、こういった場面でも意図せずそれが発揮されるのだった。
「よしっ、じゃあ食べよう、カロリーすごそうだから誉も共犯ね!」
「あっ、つづり、やっぱりそれ狙ったわね?」
「ふふーん」
「もう、共犯にはなるけどね?」
誉はほんの少し苦笑しながら、スプーンの小袋の封を切る。
「これはどっちから行くべきかなぁ、プリンパフェの方がちょっとさっぱりしてそうだから、締めをこっちにすべきかなぁ」
つづりは真剣な表情を浮かべてスイーツに対峙する。
「そうだね、ガトーショコラ、濃厚っぽいし……こっちを締めにすると食べきれなくなる可能性もあるかも」
誉も真剣に返した。
「……とりあえず自販機でコーヒー買ってくるよ、途中で欲しくなりそうだし。誉もいる?」
「あ、うん、欲しいかも」
「よしっ、じゃあ待っててね。えいっ、認識!」
つづりはテレポーテーションを発動し、誉の目の前から姿を消した。ものの十秒ほどで缶コーヒーを二つ持って、誉の目の前に戻ってくる。
「よーし、準備OK! じゃあガトーショコラから行きますか!」
「ふふっ、そうだね、いただきます」
「いただきまーす! わあっ、美味しーい!」
ガトーショコラを一口頬張ったつづりが目をキラキラさせた。
「本当、キャラメルソースが苦めで、いいアクセントだね」
誉も濃厚なガトーショコラを味わう。その見た目からも既に想像できていた通り、こっくりとしたリッチな一品だ。しかも大盛フェアで普段より増量されたサイズ感である。
ちなみにこのガトーショコラは大人気を博し、発売からそれほど日を置かずに入手困難となる幻のコンビニスイーツだった。
「あっ、昼休みの時間があとちょっとしかない! 誉、プリンパフェも早く食べよう!」
「うん、でもこれ、食べきれるかなぁ……」
「行ける行ける、パフェなんて飲み物だよ!」
「つづり、それはさすがに……」
苦笑を浮かべているものの、誉も楽しそうだった。
「じゃあ、プリンパフェタイムトライアルね!」
昼休みが終わるまで、あと十分を切っている。
つづりと誉は、その名に相応しい輝きを放つ新商品、きらめきプリンパフェに取り掛かった。




