『エリス・カルティーナ』①
普通の女の子だった
身分が王族なだけ。勉強は良くも悪くも普通で運動が大好きなどこにでもいる女の子。
花持ちで三つ花だったけど他にいる兄弟達の方が才能があった。四つ花に五つ花、上はいくらでもいる。
でも、お母様とは一番仲良し!お父様にも他の兄弟にも負けない絆で結ばれている。
生まれた頃から懐いてた。ずっと一緒だった。お風呂もご飯も寝る時も買い物もこれからも…………一緒だと思ってた。
約束したよ
お母様を守るって
魔法使いになるって
指切りしたよ
嘘じゃないよ
頑張ったよ
けどね────────
◇
「お母様ー!お母様ー!どこですかー!」
カルティナ王国、その王城で一人の少女が声を上げて走り回っている。
「エリスお嬢様!走らないでください。転んでしまいますよ」
「大丈夫よ。毎日走ってるから慣れているわ!」
メイドの注意を聞いても尚、走るのをやめない。母親に会いたいという気持ちを抑えられないようだ。
勢いを止めずに階段を駆け上がる。ドレスを足で踏まないように両手でスカートを持ちながら器用に進んでいく。その姿は王族のお嬢様とは思えないぐらい豪快だった。
階段を上がっていたその時
「あ………」
無意識に『あ』と声に出してしまう。皆もそんな状況が数回はあったのではないだろうか。大抵何か失敗したときか思い出したときだろう。今のエリスは前者の方だった。階段を踏み外したのだ。
「お嬢様、危ない!」
声を出したところで結果は変わらない。視線は天井、豪華なシャンデリアが瞳に映っている。背中から落ちていた。ただの怪我では済まないことは明らかだった。
やばい。状況の説明はそれだけで十分。魔法を使えば、上手く着地出来るだろう。しかし、エリスはそれを可能にする技術を持っていない。
助かる可能性は無い。誰もがそう思うだろう……一人を除いて。
「紅蓮の道よ」
エリスの体に何かが触れる。
意識がある、生きている、どこも痛くない。床ではないようだ。なら、何が体に触れているのか?
「……お母様!」
母親……エリナ・カルティーナだ。流れるような紅い髪に漆黒の瞳を持つ現カルティナ王国の王妃である。手と腕で支えられている形、いわゆるお姫様抱っこというやつだ。
「いつも言っているでしょう。落ち着いて行動しなさい!それに、待っていれば私から会いに行きますよ」
「信じていました!お母様ならぜーったい助けてくれるって」
太陽のような笑顔をエリスは見せる。
「ふふ、とりあえず怪我をしなくて良かったわ。まさか、私に早く会うために……って流石にそれはないわね」
「どうしたんですか?」
エリスが問いかける。笑顔は続いていた。
慌てて
「なんでもないわ。とりあえず降ろすわね」
「うん!」
丁寧に床に降ろされる。
「お母様ー!大好き!」
離れていた時間は一秒もあっただろうか。降りてすぐ、エリスはエリナに抱きついた。
「まぁまぁ」
まるで猫のマーキングのように顔を服にすりすりと当てる。「私だけのお母様です!」と周りに見せつけているようだ。独占欲が限界突破している。
「私に何か見せたいものでもあった?」
エリスの頭を撫でながら問う。
顔を擦り付けるのを止めてエリナの顔を見るてから言う。
「あのねあのね。前にお母様を守る魔法使いになるって約束したでしょ。だからー一緒に特訓してほしいの!」
目を輝かせながら言う。
「うーん……そうねー」
「だめなの?」
「いいよ」と即答しないことが衝撃だったのか。目をうるうるとさせて、今にも泣きそうになっている。
「ち、違うわエリス。もうすぐ建国祭があるでしょ」
「うん。楽しみ!」
三日後に建国祭が始まる。国民の中に知らぬ者などいないだろう。
「それでね、今年は他の国々の方たちがたくさん来る予定になっちゃったの。だから、準備で忙しくって」
緊急の予定。仕方のないことだ。当然、聞き分けられる…………はずもなく
「やだー!今日がいーいー!」
エリスが駄々をこねる。この城にいる者なら見慣れている光景だった。
「お嬢様。奥様に迷惑をかけてはいけませよ」
背後から冷たい声が耳に響く。それと同時に、エリスがまるで氷漬けになったかのように動かなくなる。
「ひっ……マリー。数日はここにいないのでは」
青ざめた顔でエリスはマリーの方へ振り向く。少し青みがかった冷たい白色の髪、耳にかかるくらいの長さだ。ボーイッシュな女の子という感じだった。
マリー・デュランタ『騎士団第二部隊副隊長』兼『第四王女専属執事』を務めている実力者。
「確かにそのような予定でしたが、こうなることを予想して戻って参りました」
表情は変えずに真顔のままだ。
「エリス〜」
エリナがしゃがみエリスと顔を合わせる。
「何、……お母様」
エリスの言葉には明らかに元気がなくなっていた。しょんぼりと口をとがらせている。
エリナは両手でエリスの顔を寄せて口を近づける。
「ちゅ」とおでこにキスをした。
「これで我慢してね。建国祭は絶対一緒だから」
「でも……うん、分かった。絶対一緒だからね!」
「偉いわ、エリス。マリーよろしくね」
「承知しました。奥様」
今日も変わらぬ、いつもみたいな一日が始まるんだと思ってた。
お勉強して、ご飯食べて、着替えて、寝る。
でも、違った
ここから狂い始めたんだった
◇
ベンチに二人、少女が座っている。
アイスを食べながら会話をしているようだ。
白髪の少女が
「ちょっと自由行動させてくれない?」
「……ロンド、第四王女に手を出すな。均衡が崩れるぞ」
金髪の少女がやれやれといった感じで答える。
「……カプリッチオ、邪魔しないでよ」
「邪魔じゃない。使命を全うしているだけだ。……ってもういないし、アイス二個もいらないんだが」
気づくとロンドはいなくなっており、空いているはずの左手にアイスが握られていた。
「はぁ、制御不能だな」
ため息をつき、糖分を求めてアイスを舐めようとする。
しかし、目の前にあるはずのアイスは既に消えていた。残っているのはコーンだけだ。ロンドの仕業である事は間違いない。
「……殺す」
カプリッチオはロンドに対して、静かに殺意を抱いたのだった。




