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善悪のなんでも屋  作者: しょぼん
第一章 『イヌホオズキ』
16/17

『エリス・カルティーナ』①

 

 普通の女の子だった


 身分が王族なだけ。勉強は良くも悪くも普通で運動が大好きなどこにでもいる女の子。

 花持ちで三つ花だったけど他にいる兄弟達の方が才能があった。四つ花に五つ花、上はいくらでもいる。

 でも、お母様とは一番仲良し!お父様にも他の兄弟にも負けない絆で結ばれている。

 生まれた頃から懐いてた。ずっと一緒だった。お風呂もご飯も寝る時も買い物もこれからも…………一緒だと思ってた。

 

 約束したよ

 

 お母様を守るって


 魔法使いになるって


 指切りしたよ


 嘘じゃないよ


 頑張ったよ


 けどね────────


 ◇


「お母様ー!お母様ー!どこですかー!」


 カルティナ王国、その王城で一人の少女が声を上げて走り回っている。


「エリスお嬢様!走らないでください。転んでしまいますよ」


「大丈夫よ。毎日走ってるから慣れているわ!」


 メイドの注意を聞いても尚、走るのをやめない。母親に会いたいという気持ちを抑えられないようだ。

 勢いを止めずに階段を駆け上がる。ドレスを足で踏まないように両手でスカートを持ちながら器用に進んでいく。その姿は王族のお嬢様とは思えないぐらい豪快だった。

 階段を上がっていたその時


「あ………」


 無意識に『あ』と声に出してしまう。皆もそんな状況が数回はあったのではないだろうか。大抵何か失敗したときか思い出したときだろう。今のエリスは前者の方だった。階段を踏み外したのだ。


「お嬢様、危ない!」


 声を出したところで結果は変わらない。視線は天井、豪華なシャンデリアが瞳に映っている。背中から落ちていた。ただの怪我では済まないことは明らかだった。

 やばい。状況の説明はそれだけで十分。魔法を使えば、上手く着地出来るだろう。しかし、エリスはそれを可能にする技術を持っていない。

 助かる可能性は無い。誰もがそう思うだろう……()()を除いて。


紅蓮の道よ(イグニスロード)


 エリスの体に何かが触れる。

 意識がある、生きている、どこも痛くない。床ではないようだ。なら、何が体に触れているのか?


「……お母様!」


 母親……エリナ・カルティーナだ。流れるような(あか)い髪に漆黒の瞳を持つ現カルティナ王国の王妃である。手と腕で支えられている形、いわゆるお姫様抱っこというやつだ。


「いつも言っているでしょう。落ち着いて行動しなさい!それに、待っていれば私から会いに行きますよ」


「信じていました!お母様ならぜーったい助けてくれるって」


 太陽のような笑顔をエリスは見せる。


「ふふ、とりあえず怪我をしなくて良かったわ。まさか、私に早く会うために……って流石にそれはないわね」


「どうしたんですか?」


 エリスが問いかける。笑顔は続いていた。

 慌てて


「なんでもないわ。とりあえず降ろすわね」


「うん!」


 丁寧に床に降ろされる。


「お母様ー!大好き!」


 離れていた時間は一秒もあっただろうか。降りてすぐ、エリスはエリナに抱きついた。


「まぁまぁ」


 まるで猫のマーキングのように顔を服にすりすりと当てる。「私だけのお母様です!」と周りに見せつけているようだ。独占欲が限界突破している。


「私に何か見せたいものでもあった?」


 エリスの頭を撫でながら問う。

 顔を擦り付けるのを止めてエリナの顔を見るてから言う。


「あのねあのね。前にお母様を守る魔法使いになるって約束したでしょ。だからー一緒に特訓してほしいの!」


 目を輝かせながら言う。


「うーん……そうねー」


「だめなの?」


 「いいよ」と即答しないことが衝撃だったのか。目をうるうるとさせて、今にも泣きそうになっている。


「ち、違うわエリス。もうすぐ建国祭があるでしょ」


「うん。楽しみ!」


 三日後に建国祭が始まる。国民の中に知らぬ者などいないだろう。


「それでね、今年は他の国々の方たちがたくさん来る予定になっちゃったの。だから、準備で忙しくって」


 緊急の予定。仕方のないことだ。当然、聞き分けられる…………はずもなく


「やだー!今日がいーいー!」


 エリスが駄々をこねる。この城にいる者なら見慣れている光景だった。


「お嬢様。奥様に迷惑をかけてはいけませよ」


 背後から冷たい声が耳に響く。それと同時に、エリスがまるで氷漬けになったかのように動かなくなる。


「ひっ……マリー。数日はここにいないのでは」


 青ざめた顔でエリスはマリーの方へ振り向く。少し青みがかった冷たい白色の髪、耳にかかるくらいの長さだ。ボーイッシュな女の子という感じだった。

 マリー・デュランタ『騎士団第二部隊副隊長』兼『第四王女専属執事』を務めている実力者。


「確かにそのような予定でしたが、こうなることを予想して戻って参りました」


 表情は変えずに真顔のままだ。


「エリス〜」


 エリナがしゃがみエリスと顔を合わせる。


「何、……お母様」


 エリスの言葉には明らかに元気がなくなっていた。しょんぼりと口をとがらせている。

 エリナは両手でエリスの顔を寄せて口を近づける。

 「ちゅ」とおでこにキスをした。


「これで我慢してね。建国祭は絶対一緒だから」


「でも……うん、分かった。絶対一緒だからね!」


「偉いわ、エリス。マリーよろしくね」


「承知しました。奥様」


 今日も変わらぬ、いつもみたいな一日が始まるんだと思ってた。

 お勉強して、ご飯食べて、着替えて、寝る。

 

 でも、違った


 ここから狂い始めたんだった


 ◇


 ベンチに二人、少女が座っている。

 アイスを食べながら会話をしているようだ。

 白髪の少女が


「ちょっと自由行動させてくれない?」


「……ロンド、第四王女に手を出すな。()()が崩れるぞ」


 金髪の少女がやれやれといった感じで答える。


「……カプリッチオ、邪魔しないでよ」


「邪魔じゃない。使命を全うしているだけだ。……ってもういないし、アイス二個もいらないんだが」


 気づくとロンドはいなくなっており、空いているはずの左手にアイスが握られていた。


「はぁ、制御不能だな」


 ため息をつき、糖分を求めてアイスを舐めようとする。

 しかし、目の前にあるはずのアイスは既に消えていた。残っているのはコーンだけだ。ロンドの仕業である事は間違いない。


「……殺す」


 カプリッチオはロンドに対して、静かに殺意を抱いたのだった。






 




 

 

 

 








 

 






 





 










 




 




 


 




 

 




 


 




 


 

 



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