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善悪のなんでも屋  作者: しょぼん
第一章 『イヌホオズキ』
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『エリス・カルティーナ』②


 カルティナ王城のとある廊下で会話が行われていた。王族の財宝を盗むためでもなく、国王を暗殺するためでもない。目的はただこの城から抜け出す。その一つだけなのだ。


「しーー!バレないように移動するのよ。メル」


「きゅー」


 声を限りなく押し殺し少女がメルという魔獣に伝える。返事?は聞こえたものの、言葉が通じているかは分からない。

 抜き足差し足忍び足で廊下を進んで行く。


「チラ⋯⋯チラ」


「きゅ⋯⋯きゅ」


 曲がり角の死角に身を潜め、人がいないかを確認する。


「よし。行くわよメル」


「きゅー」


 この道は安全と判断し進もうとしたその時


「バレていますよ。お嬢様」


 すぐ背後から聞き覚えのある声が聞こえた。冷たくて澄んでいる声だった。

 顔を震わせながらゆっくりと後ろへ振り返る。

 背後にはやはり


「マリー⋯⋯」


 専属執事のマリーがいた。音もなく近づいてくる様は幽霊に近い。

 エリスは不本意ながら、自分の部屋に連れ戻された。


「どうして、廊下にいたのですか?」


 マリーが慣れた手つきでカップに紅茶を注ぐ。


「勉きょ⋯⋯⋯え〜と」


「⋯⋯サボりですね」


 バレバレである。


「⋯⋯そーでーす」


「⋯⋯きゅー」

 

 気まずい空気が流れる。

 とりあえず、目の前にある紅茶を飲むことにした。マリーの様子を見つつカップに口をつける。何度も飲んだことのあるいつもの紅茶だった。美味しいということしか自分には分からない。

 同じくマリーも紅茶を飲む。一つ一つの所作が完成されていて美しい。紅茶を置き、マリーが口を開く。


「気分転換がしたいのなら素直に言ってください。お嬢様の意志を()()()()()尊重しますから」


「⋯⋯本当?」


 恐る恐るマリーの顔を見て問いかける。


「ふふ、本当です。信じてください」


 笑っていた。安心させるような笑顔だった。

 笑うことが好きだった。大抵、楽しいことや嬉しいことがあった時に自然となっているから。

 人を喜ばせることが好きだった。褒めてくれるし、笑ってくれるから。

 

 そっか、私のこと信じてくれるんだ


「うん!分かった」


「それじゃ、一緒にお買い物に行きませんか?」


「行くー!」


 断る理由がない。元気よく返事をした。

 それからすぐに身支度を済まして、マリーと一緒に市場へと向かった。


「おっかいもの♪おっかいもの♪」


 リズムを取って、スキップをしながら道を進んでいく。上機嫌であることは誰の目から見ても明らかだ。


「お、第四王女様じゃねぇか!この果物買っていかねぇか。今なら安くしとくぜ」


「こっちの肉もどうだい!」


「肉と一緒に野菜もね!ちゃんと栄養摂らなきゃダメよ」


「えへへ、どれも美味しそう〜♪」


 色々な店の人たちから声がかかる。エリスが国民から愛されている証拠だろう。


「お嬢様。分かっていると思いますが、全部は買えませんよ」


 金銭的には問題ないのだが、あまりにも多いと食材を腐らせてしまう。それでは、店の人たちに失礼だ。


「⋯⋯分かってるし。ねぇ、メル〜」


 そばにいた宝石獣(カーバンクル)のメルを抱きかかえる。顔を見合わせ、笑顔で返事を求めた。


「きゅー?」


 メルは不思議そうに首を傾げた。


「メルと会話、出来ているんですか。お嬢様はそういう花持ちでもないですよね」


「出来るもん。私とメルは固い絆で結ばれてるもん。ねぇ〜♪」


「きゅー!」


「ほらー!」


 さっきと同じ鳴き声だったが、少し熱意がこもっているように感じたのは気のせいだろうか。

 エリスが『どやー!』みたいな顔でこちらを見ている。


「ふふ、失礼しました。お嬢様とメルはとても仲が良いんですね」


「そうでしょ〜♪とっても仲良しだし、いつでも一緒だよ」


 エリスは再びメルを抱きしめ、頭を撫でた。メルは心地よさそうに目をとろんとさせている。


「マリー。私、フルーツ飴が食べたい!」


「そうですね、もうすぐ昼食ですが⋯⋯まぁ大丈夫でしょう。行きましょうか」


 買い物をある程度済ませてからフルーツ飴の店へ向かった。


「これ二つください」


「あいよ。ちょっと待ってな」


 飴が準備されるまで少し待つ。


「お嬢様ってフルーツ飴が大好きですよね。ほぼ毎日、食べているような気がします」


「うん、大好きだよ。お母様と建国祭で初めて食べた食べ物だから」


「なるほど。思い入れがあるということですか」


「嬢ちゃんたち待たせたな」


 店員さんが二つのフルーツ飴をこちらに渡す。エリスは目を輝かせていて、早く食べたいという気持ちを抑えられないようだ。


「お嬢様。ベンチまで行ってから座って食べましょう」


「え〜〜」


「すぐ近くにありますから」


「⋯⋯分かった。じゃあ競争だー!」


「⋯はぁ」


 勢いよくエリスが走り出す。

 猪突猛進。誰にも止められない。


「お嬢様止まって。転んでしまうかもしれません」


 食材が入った茶色の袋を持って、エリスに呼びかける。


「だいじょ⋯⋯あ」


 エリスの視線が急降下、地面が急接近してくる。もちろん、つまずいて転んだからである。持っていたフルーツ飴も宙を舞っていた。

 注意を聞かなかったエリスに天罰が下ろうとしたその時


「⋯⋯え?」


 自分の影から手が出ており、体を支えてくれている。フルーツ飴もキャッチされていた。


「大丈夫か?」


 上から声が聞こえた。頭を上げると白髪の男の子が目の前に立っている。首筋には黒い五つ花の紋様があった。


「うん、大丈夫。えっと⋯その⋯ありがとう」


 支えられたまま感謝の言葉を伝える。


「怪我はないみたいだな。よかった。もう転ぶなよ」


 立たせてもらい、フルーツ飴を彼から受け取る。そのすぐ後にマリーが慌ただしく駆け寄ってきた。


「お嬢様を助けていただきありがとうございます。なんと礼をしたらよいか⋯」


 深くお辞儀をして彼に礼をしている。


「お気になさらず。怪我がなくてよかったですよ。それでは、用事があるので失礼します」


 大人の対応をし男の子は去って行った。


「はぁ、お 嬢 様」


 この言い方からして完全に怒っているのは明らかだった。


「⋯⋯ごめんなさい」


 説教が終わるまでフルーツ飴を食べることはできなかった。


 ◇


「どこ行ってたんだ、レイ」


「ちょっと人助けをしただけです。気にしないでください()()


 黒髪の背は180cmぐらいあるだろう男性に言う。


「そうか、ならいいんだ。行くぞ」


 二人の男は人気がない薄暗い道を進んでいった。


 


 


 

 


 






 


 



 

 

 


 


 


 

 

 




 


 

 






 

 


 


 

 


 


 

 

 

 



 


 


 

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