誰かさんの手のひらの上⑤
「エリス?」
レイが突然、後ろへ振り返る。その視線はさっきまで自分達がいた場所。今はエリスが一人で座ってのんびりしているであろうベンチの方へ向けられていた。
「どうした?レイ」
少し前方にいるカールが問いかける。
「……いえ、大丈夫です。行きましょう」
再び目的地へと向かう。
「おい、本当に大丈夫かよ。なんか変だぜ。具合でもなんでもどっか悪いなら言ってくれよ」
横からカールが心配そうに声をかける。
「大丈夫。心配しなくても元気ですよ」
笑う
いつもしている笑顔
接客、子供への対応、つまらない話の反応、心配させないため、人を騙すため、色々な笑顔がある。
変わらない、疑いなんてない、練習してきたから手に入れた顔。
さっさと終わらせよう
「……そうだな、心配しすぎだな。さっさと終わらせて、エリスと合流するか!」
カールも笑う
なんだ、同じじゃないか
◇
ある建物に少女が二人だけ。その内一人は拘束されている。
世の中には女の子が好きな女の子もいるし、その関係が好きな人もいるらしい。今まさにそんな関係が発展しようとしている……というわけではない。
「何が目的なんれふか」
少し呆れたように拘束されている少女が問いかける。
……噛んだが自分の意思ではない。
「つん…つんつん……つんつんつんつんつんつんつんつんつんつんつんつん」
目の前にいる白髪の少女がほっぺたをつついてくる。わざわざ『つん』を声にして。
「ならいれふ。ちょっと……ながふぎます」
言葉だけの抵抗、効果はあるのだろうか?
「つん……つん………うん、飽きた」
自分勝手、世界で彼女ほどこの言葉が似合う人間がいるだろうか。
「……私、貴方のこと嫌いです」
「えぇ!なんで〜」
声を大きくして、いかにもショックを受けたような仕草を見せる。
「当たり前でしょう!……っていうか質問に答えてくださいよ。何者で何が目的なのか」
「はぁ~、だからーそのうち分かるって言ってんじゃん」
やれやれ、となぜかこっちが悪いような態度を取っている。
「でも、まぁいっか」
彼女から……ロンドからその言葉が発せられる。
雰囲気が変わった
何かを諦めたかのような声だった
言葉が出なかった
ロンドが近づいてくる
怖い。こんなの人間じゃない。別格な存在、そう確信できるほどの何かをロンドは持っている。
「早すぎるけど……まぁ、上手くいくでしょ〜」
私の額に手を当てる。変わらず冷たい、心地良い感覚。
「思い出して、エリス。私達はずっと昔に会っているから」
安心させるような優しい、お母様に似ている声だった。
この声どこかで───
意識は深く、深くどこまでも落ちていった。
◇
「あらら、寝ちゃったかな……ついでに剥がしちゃいますか」
エリスの身体が白い光に包まれる。10秒ほど経ったところで本来の姿が明らかになった。
「人間の成長は早いものだね」
エリスの頭を撫でる。
「懐かしい〜、昔はよく遊んでいたのになぁ、『お姉ちゃん』って呼んでくれたのになぁ。悲しいなぁ、忘れてるなんて」
ぎゅーっとエリスに抱きつく。
「この時間がいつまでも続けばいいのになぁ………たまらん」
超至近距離に美『少女』がいる。これだけで幸福感が限界突破してしまう。
「栄養摂取かんりょ。そろそろ移動しますかね。カールくん、予定通りいってるかな〜」
エリスから離れ、指を鳴らす。
「相変わらずうるさいな〜」
無数の魔獣の鳴き声が聞こえる。宝石獣にドラゴンの子供、そのすべてに番号が振られている。いわゆる商品番号というやつだ。闇市場で盛んに行われているオークションで使うための。
その魔獣達の中でも特異稀なる一体がいた。
紫色の転移の宝石獣
「名前は……メルちゃんだっけ。ごめんね〜巻き込んじゃって」
通じるわけのない謝罪を一応しつつ目的の場所へと向かう。
「やあやあ、君達。今日はよろしくね」
人間が四人集まっている。全員が四つ花の実力者だ。
「俺たちは仕事をこなすだけだ。金は用意しとけよ。」
「あ、殺さないでね」
「聞いてねぇな。なぜだ」
「あ〜〜人身売買で使うからさ、状態には気を遣ってほしいんだ」
嘘だけど
「相手は五つ花だろうが、そんな余裕はねぇ」
レイくんに相性のいい花持ちを選んだから勝つことは出来るだろう。相手は油断しているし、不意を突けば深い傷を負わせられる。
でも、捕まえるのは難しい。レイくんはもちろん反撃してくるし、手加減できるような相手でもない。
「そんな貴方にーーーーーこれ!てっててーー、なんかすごいまどーぐー」
「んだよこれ」
「これを使えば、相手が騎士団隊長でも一撃で捕まえちゃうよ」
無理やり手を開かせ魔導具を渡す。
「んじゃ、頑張ってー」
「おい!っていなくなっちまった。使い方を教えてくれよ……」
「ボス。紙が挟まってますよ」
丸刈りの男が報告する。
「マジか……説明書となんだこれは」
説明書とは別の紙を開けようとする。
その紙には何が書かれているのだろうか。
唾を飲み込み勢いよく紙を開ける。
「こ、これは!」
その紙には書かれてあった。短い言葉だった。
『怨念がおんねん』
「……ダジャレじゃねぇか」
四人の男たちは少しだけ無駄な時間を過ごした。




