誰かさんの手のひらの上③
色々修正しました。
すいません。
「おっちゃん、これ一つ!」
「私も一つください!」
「あいよ、毎度あり」
建国祭前日。カルティナ王国は活気に溢れ始めていた。数こそ少ないが、屋台も運営しているところがある。子供が大人と一緒に楽しそうに歩いていく様子を眺めつつ、自分の財布にも目を向ける。
「あのー、なんで私が全部払っているんですかね?」
財布の中身はすっからかんとまではいかないが、確実に乏しくなっている。
「給料日まで節約しなきゃですね……」
給料日まではあと二週間もある。サレナさんに少しぐらいお金を貸してもらおうかな。
「レイは食べないんですか?」
エリスがさっき買ったばかりのフルーツ飴を舐めながら言う。
「私は……お腹空いてないので」
「そうなんですか。……あ」
エリスが私の財布を見て、しまったという顔になった。
「ご、ごめんなさい、レイ。貴方ばっかりにお金を払わせてしまったのね。今までの分も全額払わせてください」
慌ててエリスが財布か何かを出そうとするがここであることに気がつく。
「私……財布持ってない。置いてきちゃった……」
しょぼんと下を向いてエリスは立ち尽くす。
「いや、大丈夫ですよ。依頼の代金を払ってもらいますから、その時でお願いします。それに子供ですしね!」
エリスはまだ14歳だ。お金を自分で払うような年齢じゃない。……依頼料は別だ。
「エリスはいいですが……カール。貴方は自分で払ってくださいよ」
フルーツ飴をガリガリと噛んで食べているカールはこっちを向く。
「えぇ~、俺も子供だぜ。そこまで、第四……エリスと年はそこまで変わらないはずだ」
「えっ、そうなんですか?」
エリスが驚き、問いかける。
「なんだよ、レイ。知らなかったのかよ」
「……21歳ぐらいでは?」
ここで初めて会った時に推測した年齢を口にする。とてもエリスと同じぐらいには見れない。
「全然違う!俺は15歳だ」
「は?嘘では……ないですよね」
「たりめーだろ。嘘をつく理由がねぇ」
食べ終わった飴の棒をゴミ箱に捨ててからこっちに近づいてくる。私の肩に手を回して言う。
「だから頼むぜ。お兄ちゃんよ」
「貴方の兄になった覚えはありませんが、私が言い出したことですからね。しかし、驚きました。貴方が年下だとは」
改めて見ても年下には見えない容姿をしている。同年代か年上、今でもそう思ってしまうほどに。
「まっ、気にすんなよ」
軽く肩を叩いてカールが歩き出す。
「そうさせてもらいます」
「うっし、もうちょい遊んでこうぜ!」
「私も、もっと食べたいです!」
「まだ食べるのかよ!?」
カールがエリスの方へ顔を向ける。
フルーツ飴も含めてエリスは7個、食べ物を食べている。それなりに量があるはずだが、まだ食べれるとは……
「まだまだいけますよ。これぐらい普通では?」
きょとんとして不思議そうな顔でこちらを見る。この細い身体のどこに入っていくのか。
エリスの体をまじまじと観察していると
「えっち」
「いや、違うんですよ!」
「最低だぜ、お兄たま」
「……」
言葉に詰まる。本当にそんな気はなかった。謝罪しようとすると、エリスがニコッと笑う。
「冗談です。さっ、行きましょ!」
「お金のこと、もうちょい考えてくださいね!」
「分かってますよ」
エリスが振り返り大きな声で伝える。カールも振り向き口を開く。
「ちなみに俺は考えないからな!」
「なんでですか!」
「人の金で食う飯は美味いからな。常識だ」
そんな馬鹿らしい会話をしながら、屋台を楽しんでいった。そして、時間は昼になる。
三人はベンチに座り休憩していた。朝と比べて人が増えていることが確認できる。そろそろ『隠し場所』に行ったほうが良さそうだ。
「カール」
ベンチから立ちカールに呼びかける。すると察したように
「あいよ」
と返事をして立つ。
レイはエリスの方に体を向け伝える。
「では、いってきます」
座ったままエリスは微笑み
「いってらっしゃい。ここで待っていますかね」
と返事をした。
そこで、レイはエリスの顔を見たまま立ち止まる。見惚れているわけでもなく、哀れみを向けているわけでもない。どこか懐かしい『何か』を見ているような感じだった。
「「レイ?」」
疑問に思った二人がレイに呼びかけた。
「すいません。行きましょう、カール」
レイは何事も無かったかのように歩き出した。カールが心配そうにレイの横に並ぶ。
「疲れてんのか?」
「……問題ありませよ。すぐに終わらせましょう」
「りょーかい」
カールはこれ以上追求することはせずに、レイと一緒に目的地へと歩いていった。
◇
「大丈夫かしら?」
ベンチに座ったままエリスがつぶやく。レイのあの表情は一体何だったのだろうか。
「……あ、そういえば聞くのを忘れていましたね」
自分の右手の甲にある赤色の花の紋様を見つめながら言う。今日、夢で見た過去の記憶。『二つ花』ではなく『三つ花』だった幼少期。何があったのか分からないままだ。
「図書館にでも行って調べてみようかな」
快晴の空に手を向けつぶやく。
そこで突然
「こんにちは。お嬢さん♪」
耳元にボソッと不意に囁かれる。
「ひゃっ!」
反射的にベンチから立ち、後ろを見る。そこには誰もいなかった。確かに後ろから囁かれたはずだ。辺りを見回しても怪しい人物は誰一人としていない。
「……おかしいな」
「ここにいますよ。お嬢さん♪」
「ひゃっ!」
また背後から耳元に囁かれる。すぐさま振り返ると、少女が立っていた。恐らく同年代ぐらいの。後ろへと距離を取る。
「良い反応しますね。お嬢さん♪」
怪しい笑みを浮かべ近づいてくる。
「だ、誰ですか?」
「そう警戒しないでよ。でもまぁ、確かに名は名乗っておいた方が良いかもね」
少女は歩む足を止めない。距離を離してもその分近づいてくる。いつの間にかベンチまで戻っており、それに気づかず足が引っかかて座ってしまう。
「はじめまして、僕の名前はロンド。よろしくね」
ここで初めてエリスは目を合わせる。ロンドという少女の青い瞳の奥には白い五つ花の紋様が確かに存在していた。




