誰かさんの手のひらの上①
朝がやって来た。今まで何度も経験してきた朝。まぶたが重く二度寝したい気分だった。しかし、仕事があるのでそういうわけにもいかず支度を始める。
『サクッ』と心地よい音が耳に届き、同時にほのかな甘さが口に広がる。適当に買ったパンだったがなかなか美味しい。次も買ってみようと思った。朝から少しの満足感を得て、次の準備を始めた。
「これでよしっと」
朝食を食べ終えた後、服を着替えて依頼の準備をした。
「後は順調に進めばって感じですね」
昨日のカールとの会話を思い出す。
──7時間前
「では、いくつか質問をさせてもらいます」
「おう」
「まず、なぜカールさんは魔獣を運んでたんですか?」
「は?そんなことかよ。聞かなくても分かってんだろ。金がねぇからと闇市場の誰かと関係を持ちたかったからだな」
少し呆れた様子でレイを見つめて答えを返す。
「失礼しました。一応、聞いておきたかったんですよ」
「そうかよ。後、名前を呼ぶ時『さん』はいらねーぜ。カールでいい」
少し笑ってレイに伝えた。
「承知しました。では、改めてカール。質問を続けます。あの魔獣の隠し場所の入り方を教えてください」
「隠している場所は……って、そういや後をつけられてたんだったな。」
カールは落ち込んでいる様子を見せた。尾行に気付けなかったことが悔しいのだろうか?そう考えているとカールは目の前の机に鍵を置いた。
「入るためにはこれを使う。空間と別の空間を行き来するのに使う魔導具だ。鍵を持ってるやつだけ鍵穴が見える仕組みになってる」
「便利ですね。依頼が終わったら貰っていいですか?」
「残念ながら、これはあくまでも鍵だ。単体で空間を繋げる事はできねぇ」
「そうですか。少し残念です」
「俺も聞いた時は落胆したぜ」
なんでも屋と繋げれば移動が楽になると思ったのだが、そう簡単にはいかないか。
質問を続ける。
「その場所に転移の宝石獣はいますか?」
「そいつを探すのが依頼ってわけか?」
「そのとおりです」
「丁度昨日捕まえたぜ。魔力が切れてたから楽々な。隠れ場所にいるのは俺が捕まえたその一体だけだ。探してる個体でほぼ間違いないと思うぜ」
「そうですか!助かります」
今日一番の収穫だ。これなら明日にでも依頼を終わらせることが出来るだろう。
「一応、その宝石獣の特徴についても話しておこうか?」
「特徴ですか。宝石獣は額に埋め込まれている魔石に応じて色が変わると聞いていますが」
「いや、それとは別だ。ちょっとした事なんだか尻尾の先が赤かったんだよ」
「尻尾の先ですか」
「あぁ、依頼者に確認しとくんだな」
明日、エリスに確認しに行こう。
「隠し場所の警備が少ない時間帯は分かりますか?」
「そうだな……俺は魔獣を運ぶ仕事を一時的に請け負っているだけだ。警備とかそういうのには関与してねぇ」
「そう……ですよね。すみません、自分で調べてみ──」
「待てよ」
突然、言葉が遮られる。
「別に知らねぇとは言ってねーよ。……あーいや、全部把握してるわけじゃねぇんだが。そんなに期待すんなよ」
「はい。お願いします!」
「俺は朝、昼、夜の時間帯に魔獣を運んだことがある。こん中で一番警備が少なかったのは昼だ」
「昼ですか?少し意外ですね」
「だよな。俺も驚いた。まっ、参考程度にしといてくれ」
「ありがとうございます」
「……お前さ、いいやつだな」
突然、褒められる。どこに褒められる要素があっただろうか。
「ふふ、どうしてですか?」
「だってよー情報屋やってるとな、クソみたいな客ばっか来るんだよ。少しでも情報が違うとクレーム入れてくるし、金は払わねぇしな。っとすまねぇ、愚痴言うつもりはなかったんだ」
右手を使って謝罪する。
「良いんですよ。また、愚痴言いに来てください。私で良ければですが」
「マジかよ。じゃ、お言葉に甘えさせてもらうぜ」
「一分、一万でお願いしますね」
ニコッと笑いながらカールに言う。
「信じた俺が馬鹿だったぜ」
「冗談ですよ」
「どうだか」
その後も少し話し合いを続けた。そして現在に至る。
「さて、先にエリスに報告と確認ですね」
すぐにレイは影での移動を開始した。




