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魔術的鍵師物語  作者: mono
第九

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ママ‐やっつめ

 晩、食事を済ませたアキナの両親、父だけが早々に眠りにつく。

 そしてアスカはイエレナを連れて、しばし外に出る。腕をまくり、夜風で体を冷やしていく。外もそれなりに暑いものである。それでもアスカは夜風の心地よさを感じずにはいられなかった。

 そして、ちらりと家の戸を見る。アキナに言われた通りに外に出はしたものの、二度三度、何度も視線を家のほうに向けるのだった。


「少し・・・やつれた?痩せた?」


 アキナが、皺のある母に純な言葉を投げかける。

 軽くそっと。

 蛇口から水がポタっと落ちる。


「なに?・・・・そんなにニコニコしながら見て、怖いよ。」


 母は骨の見える腕を机に預けている。掌は膨らみ、木の実一つ分の空間を残して指先が机に立つ。そして手首から肘まではのっぺりと置かれている。


「母さん?聞こえてる。」


 母はもう一度笑い、頷く。

 アキナは、はぁと息を吐く。そして同様に机の上に腕を預ける。指はピンとのび、掌の皺が広がり、木でできたそれとの隙間と合わさっていく。小指を動かし、枠をはみ出た拍子に角を掴むように指を曲げる。


「なんで、こんなところ。たまにはあの人の言うことに反対しても良いんじゃないの?」


 首が振られる。


「いつまでも、それでいいと思ってるの?」


 また。


「・・・・怖くないの?」


 蛇口が渇き、水音を立てなくなる。


「ないわよ。怯えは・・・・・ないわ。」


 母の言葉が続いていく。


「今のあの人を見てると、思い出すんだわ。昔のこと。」


 自然と首が外へと向かわせていくのがアキナでさえ分かる。


「あの人、昔からああなのよ。まぁ、そんなことないとは思ったことはないだろうけど。ほんとにあのまま。まぁ家事なんかに手を出したのは最近だけど。身勝手で、横暴で、単純で。」


 母の首は、彼女の視線を一つの扉へと向かわせる。


「それでもね、あの人は言ったの。私を苦しませはしないって。いや言ってないかしら。どうだったのかな。まぁでも、私にそう伝えようとしてたことには変わりない。」


 視線は再び、外へと向かう。


「きっと、どこかで歯車がズレちゃっただけなのよ。だから、そんな顔しないで・・・・・また遊びにでも来てよ。あの人のヘンテコな話聞かせてあげるから。」


 はにかむ母の首は回る。

 アキナもその視線に重ねるように、父のいる部屋を見つめていく。


「あの人、最近・・・・・腰悪いのよ。なのに、家事頑張ってて。笑っちゃうでしょ。あの人がだよ?ねぇ笑っちゃうでしょ。」


 明るすぎると感じていた室内も、外灯が太陽から月に変わった今はちょうどよく感じれていた。

 アキナは水っけを忘れた目頭を摘まみ、休ませながら、天井に顔をやる。

 チカッと光る室内灯に思わず目を瞑り、顔を背ける。


「あら、大丈夫?もし、かまわないならさ、今日は泊っていきなさい。もう遅いでしょう。ほら外のあの子たちも呼んできて。」


 静かに立ち上がったつもりでも、椅子はがたっと音を立てる。アキナは、かっと顔が熱くなるような感覚になった。早足で外への扉に進み、室内から逃げる。

 扉を開くと、ぶわっと外気が髪を揺らし、口の中に入ってくる。しめっけのあるそれは、小さな羽虫と一緒になって舞い込んでくる。

 小刻みに顔を震わせ、アスカの元へと歩いていく。早足で。


「今日、泊ってけだって。」


「泊る!?」


 アスカの眉が、眉間が寄る。


「アキナは?アキナはそれでいいの?」


 言葉に詰まりながら、アキナはズボンを少し引っ張る。体に張り付くほどのそれは、悲鳴をあげているようであった。


「私・・・・・・昔よくワンピース着せられてたなぁ。」


 急な話にアスカは頭にハテナを浮かばせ、首を傾ける。


「今日だけ、今日だけだよ。」


 そういってアキナはひとりでに家へと足を運んでいく。


「ちょ、ちょっと。」


 立ち上がり、つまずきながらも歩いていく。


「アキナが良いならいいんだけど。」


 アキナに追いつき、話しかける。


「昔・・・かぁ、イエレナも小さいときは布でぐるぐる巻きにさせられてたなぁ。よく泣く赤ん坊だったし。じたばたしてたからなぁ。」


 アスカは、イエレナを持ち上げながら、頬のそばかすをこねくり回していく。


「そういえば、アスカ・・・・前に行商人に変な遊び道具もらったって言ってなかった。それ、今日やりましょ。」


「ああ、あれね。」


「名前なんて言うんだっけ。」


 アスカは、荷物の中からそれを取り出す。軽そうなそれは夜風に吹かれなくとも、ゆらゆらと震える。


「わぁ、ははっ、そんな感じだったっけ?」


「うん。確か、”線香花火”だったかな。」


 そんな会話にも、ほどなくして火薬のにおいが入り混じっていく。

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