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魔術的鍵師物語  作者: mono
第九

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ママ‐ななつめ

 夕刻時、アスカとイエレナは、床に座っている。そして家族一同は、椅子に座り続けている。

 アキナは、あえて母に視線を預け、その隅で父を観察する。今の父がどのような人間なのかを判別するには、それで充分であると考えていた。

 そうして大人しい父が口を開く。


「ああ、アキナ。前から言ってた話、今日こそは、あそこの修理屋の親人ところに頼むよ。跡取りが・・・・・・


 数年ぶりの父の言葉に、アキナの体が急激な反応を示す。顔が赤くなり、腫れあがるように発熱していく。腕やら脚やらの節からは汗が噴き出し、ぼたぼたと垂れてしまうのではないかとアキナは、思わず体をぐっと縮こめていく。

 そして、ピクリと張りのあるズボンは向く方向が変わり、軽快な甲高いを音が響く。

 アキナは、父の頬を叩き、立ち上がっていた。

 目尻、そして口角の下がる崩れた表情で父を見下ろす。

 半開きの口は、言葉を発せなかった。

 アスカへとゆっくり視線を送る。

 目が合う。 

 目が合う。

 目が合う。

 挙動不審になったアキナの両目は次の言葉によって、その場所が定まる。


「そうね。お父さん。でも今はもう関係ないでしょ。そうだ。もうこんな時間。お料理の時間じゃない?ほらやらないと。私がやっちゃうわよ。」


 母の言葉。

 アキナの父は、ぱちりと瞬きをすると自然なままキッチンへと向かっていった。

 背を向け、野菜やら何やらを用意していく。


「しょうがないの。きっとしょうがないのよ。こうなってしまったならきっと。」


 アキナは荒れる呼吸を押さえつけることができずにいた。それでも母の姿越しに、ぼやける父を見ながら、髪をぐしゃぐしゃと搔きむしっていく。

 表情も乱れ、両肘を机に立てる。 


「いったい、もう・・・なんなの。」


「・・・・・・・・」


 母は、湯飲みを持ち上げ、音を立てずに喉に水分を通していく。


「おい、これ切ってくれ。それと、野菜切らしたから、おもてのやつ取ってきてくれ。」


 母は、はいはいと淡々とした返事を残し、外にでる。

 取り残された数人。

 言葉を紡ぐのはアキナだけであった。


「変わってるのに変わってない。料理なんかしたことなかったはず・・・・・・でも私はあの言葉を嫌というほど聞いてきた。いやそんなことより、変だ。あの人は変だ。」


 ぶつぶつと独り言は、机の上で跳ね、アキナ自身へと反響していく。

 野菜を手に母が戻り、指示されたことをこなしていく。


「この人。相変わらずよ。大して変わってない。でも、家事を率先してやるようになったのよ。もう私の役目なんか取ってやる!みたいにね。」


 背中ごしの言葉。

 アキナはそれを、頭のてっ辺で受け取る。

 そしてアスカがようやく動く。アキナの隣にあった椅子をどかしつつ、アキナを立たせる。そしてイエレナの隣に座らせてから言う。


「アキナ、帰る?・・・・・いや帰ろう。もういいんじゃない?」


 しかしアキナは、ふるふると顔を横に揺らす。拍子に赤毛は靡き、アスカの目に刺さる。


「まだ・・・・・・・まだ、ほんの少し。」


「でも、もう・・・・・・さぁ・・・」


 頭を横に振る。

 アスカは、強くなりかけた言葉を抑え込む。そして膝をつきながら、イエレナと同じくアキナの肩に手を置いて、支えることだけをしていく。

 アキナの母は役目を終え、振り返る。


「・・・・・・・・あなたは、今を生きなさい。今を認識できているなら、その今に視線を向けなさい。そして未来にも。あなたは過去の上に立ってるのだから。」


 母の言葉を父の姿に背負わせる。


「あの人は?」


「ママにも分からない。あの人は今、何を見てるのかしらね。」


「・・・・・・・ママは?」


「私?そうねぇ、私は・・・・・・」


 母の言葉は、そこで詰まったかと思うと、机でコトッという音がなる。


「ああ、ごはん作ってくれたのね。ありがとう。さっそくいただくわ。」


 そういって母を椅子につき、スプーンを手に取る。

 そして父も同様に、食事を始める。

 アキナは、食べる気は微塵もなく、ぺたりと両足を平たく地面に付けながら座り込む。

 そしてアキナに変わってか、アスカは立ち上がり、机の料理を見る。

 ひとつの大きな皿。そして二つのコップ。ふたつのスプーン。ふたつの中くらいの皿。ふたつのスープ。

 机を彩るものはそれだけであった。

 そして、食事の最中、アスカは思わず、「はっ?」といらだちの声を洩らしてしまう。

 アキナの父は、二人だけの食卓の中であっても、アキナに話しかけるのだった。

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