ママ‐よっつめ
1人の少女の治療を行った晩、寝静まった寝室でアキナがアスカに話しかける。
「ねぇ、私、昔は泣いてて気がするんだよね。治療の終わった後とか。でも今は・・・なんか涙が出るとか、無いのよね。」
「うん。」
二人とも仰向けで、どちらかに身を傾けてはいない。首元まで薄いシーツを被り、真っ直ぐな姿勢で話していく。
「涙ぁ枯れちゃったのかな。」
アキナは背中で平がる髪がうざったらしく感じる。
「枯れちゃっ・・・・・たなんてことはないんじゃないか」
暑さで汗のにじむ前髪を掻き分け、ピシッとした七三にしながら答える。
「慣れてきただけだよきっと。アキナは涙もろいでしょ。情緒深いよ。」
じんわりと顔がほてり、さらに汗がにじむ。
顔を仰ぎ、はにかむ。
「アキナは泣ける人間だよ。」
そう言うと、アキナは”おやすみ”といいアスカとは反対方向に姿勢を変える。
アスカもおやすみといいながら、別に泣けたら偉い訳じゃないけどねとつけてしていく。
くすくすと笑うアキナの声。
「難儀な性格っ。」
アキナの言葉にアスカも笑い返し、その瞳を閉じる。
翌朝、身支度を済ませ、各々宿を出る。
今日中には、アキナの故郷に辿り着く。それが皆の共通の認識であった。
「そろそろ行くよ。」
アスカが目で蝶を追っているイエレナに声をかける。
イエレナは慌てることはなく、それでも駆け足で二人の元へと駆け寄る。
アキナの隣、
イエレナはアキナを挟んで兄の隣を歩く。
「・・・・・・・・うん。だいじょぶ。行きましょ。」
夏虫が耳うるさく鳴いている。
「はぁ、なんか・・・・緊張。勝手に出てって、勝手に不安になって様子を見に来るって、私ってホント・・・・・。」
イエレナがアキナの右手を、アスカがアキナの左手をとる。
そしてアスカが暇になっている手で、自分の口角を持ちあげる。
「なにかあったら、俺が笑うよ。笑い飛ばすよ。アキナもほら笑顔、笑顔。」
「う~ん。」
イエレナも兄を真似て、帽子で隠れた顔ではあるが真顔の笑顔を見せる。
「ふふっ。」
アキナはイエレナに視線を落とし、ニコッと笑う。
「おれにも笑ってほしいんですけど。」
いじやけるようなアスカに、はいはいごめんなさいと軽口であしらう。
しかし、二歩三歩と歩いて、アキナはアスカへと視線を持ち上げると、口を横に広げながらニッとアスカに笑いかける。
太陽の日差しが半分ほど回ったころ、アスカ達は一度見たような草道へと入り込む。
一人は何とか道ができるようにと草木を掻き分け、もう一人は頭に刺さらぬようにと木の枝を気にしている。そしてもう一人、アキナは胸の内でうるさくなる心臓を鎮めようと胸に手を当てていた。
空には、翼の生えたトカゲが飛び、積乱雲なんてものを気にせずに飛んでいる。
さらには、白と黒の体毛が生えた頭の禿げた鳥が飛んでいる。
歩けば歩くほど、草木はざわめき、木々は行く先を阻もうとする。
それでも進んでいく。
そうすると、ようやく人の力が垣間見える道へと出る。
とってつけたような門。
ここにして、アキナは故郷へと帰ってきた。




