ママ‐ふたつめ
アキナの故郷まで、もう半分。
アスカ達は再び荷物を一つの宿に置いていく。
「はぁ、もう少しね。」
アキナがカーテンを閉めながら、ぼそぼそと言う。そしてカーテンを閉めたことで、虫も月夜も入ってこなくなる。
アスカは閉められたカーテンに潜り込みながら、くるぶしを掻く。
「日が伸びてきたけど、流石にこんな時間になると、もう真っ暗だなぁ。」
すっかり外も暗くなり、カエルやらが歌うようになっている。
アスカは窓から顔を飛び出させ、二階から下を眺める。
「ちょっと、虫・・・・入ってくるから。」
アキナの言葉で、アスカは身を戻し、すきま風程度が入るだけを残して窓を閉めていく。
そうすると虫の声は届きづらくなり、籠もった音となって部屋を小さく揺らすようになる。
「もう少しかなぁ。」
「うん。」
アキナがイエレナを膝に向かえる。腕を回し、ぬいぐるみを掴むように組む。そして抵抗のないイエレナをぎゅっと寄せる。
「なんか・・・・俺の弟が食べられそうなんですけど。」
「ふん、食べないわよ。」
霞むような笑顔を見せながら、おでこをこつんとイエレナの頭に付ける。
アキナは大きく息を吸い、胸のあたりを膨らませていく。
それにつられてか、喉も大きく開き、あくびが出る。
「眠い?」
アキナは答えない。目を擦り、もう一度欠伸をする。
「・・・・今日はもう寝るか。」
アスカは静かに立ち上がり、襟元を振るい、首回りを冷ましながら、明かりを消す。
「アスカ・・・・・・・」
「ん?」
「・・・・・おやすみ。」
「うん。おやすみ。」
そうして眠りの時間となる。
アキナから解放されたイエレナはひょいとベットから降り、カーテンを被りながら外を覗く。
綺麗な星、それは地上に移り、ガサガサと草むらを揺らしながら流れていく。
数匹の獣の瞳、数滴の涎を垂らしながら、イエレナを見る。
沈黙と膠着。
しかし見つめてきていたそれはすぐにどこかへと走り去っていき、暗闇へと消える。
それでもガサガサ、ガサガサという音は聞こえてくる。
イエレナは空を見る。
満月となるそれ。
明るすぎる月のせいか夜空は紺色だ。
ガサッゴソッ。
背後から聞こえる音にイエレナはカーテンを退け、視線を兄に向ける。
寝苦しさがありありとでた寝相につい視線が釘付けになる。
帽子を取り、衣を椅子に掛ける。
そんなことをしていても夜は深まるはずである、しかし時間を持て余し、イエレナは屋根に飛び乗り、ひとり座るのだった。
部屋からいなくなる。
バサバサと風に揺られるカーテン。
アキナが体を起こし、それをまとめる。
そしてまた横になる。
「月、見えないな。」
落ちるようにベットに身を沈めるアキナからは窓枠に月が収まっていなかった。
ゆらゆらと外灯が靡いている気がしていく。
ゆらゆらぼやぼや。
ざわめいている緑の中で、何かが見てくる、そんな気さえしてくる。
繊維の一本一本が覗いてくるような
「眠れない。」
アキナがそれを見つめ返す。
じっとじっと見ていくと、景色が渦巻いていく。
ぐるぐる、ぐるぐると。
「もう、日・・・・・回ってるかな。明日が来ない・・・なんてこと、起きやしないかな。」
ガサガサっと外で何かが蠢く。
思わずアキナは目を瞑り、体が石になるイメージをする。
グッと硬くなるように、身を縮め、優しく息を吸っては吐き、吐いては吸う。
薄く目を開く。
イエレナであるとの予想とは裏腹に、部屋の中に変化はない。
さらつくシーツから滑るように足を床に降ろし、窓ぎわへと歩いていく。
毅然とした態度はその姿勢に顕著だ。
凛と伸び、顎先までもがきれいな直線を描く。
「?」
外を見下ろすアキナ。そこには何もいない。あるのはふたつの星。きょろきょろと獣の瞳が草むらの中で彷徨っている。
「迷子?はぐれちゃった?」
優しい声色。
子供に話しかけるようであるが、悲哀の色もある。
「帰れる?」
それからの返答はない。
アキナはカーテンをまとめていた紐を解き、そっと流れるように閉めていく。
そしてベットに横たわりながらひたすらに瞳を閉じる。
胸に手を当て、そこにある動悸を冷やそうとしていく。そうしていくうちに、アキナは眠っていき、イエレナが戻ってくる音にも気づかない。
翌朝、アキナが目覚める。
「おはよ。」
「ん。」
目を擦り、暇になる手でぼさぼさの髪を梳いていく。
食事の時間になれば、片方の手にコップを持ち、もう片方にはスプーンを持つ。
そうして三人は再びアキナの故郷に戻るため歩みを進めていく。
イエレナを真ん中に、手を繋ぎながら歩いていく。
そして空いた手でさわやかに過ぎる風を感じながら歩いていくのだった。




