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魔術的鍵師物語  作者: mono
第九

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92/119

ママ‐ひとつめ

 人捲り、ひとめくり、宿舎にて新聞を眺め、それを見ていく。


「ねぇ、知ってる?文明を起こすほどの美少年。アイドルなんだけどね、ほんと顔が良いらしいよ。」


「へぇ、文明をつくるほど?」


 ちらりとアキナの様子をみる。


「文明ねぇ・・・アキナのテンションが上がるのも頷ける。」


「・・・・あんた、まだ見たことないでしょ。かといって私もないけど。」


 ベッドに腰かけているアキナは足を揺らしながら答える。

 そしてアスカは顎を触りながら話題を途切れさせない。


「アキナは、イケメンがいいんだ?」


「そりゃぁ、ないよりはあったほうがいいに決まってるでしょ。」


「・・・・・さいですか。」


 新聞を置き、窓を開く。


「イエレナー、朝ごはん食いに行くぞー」


 こくりと頷くと、ひとっ飛びで窓枠に足を乗せる。


「あんた、身軽ねぇ。」


「まぁ、俺の弟だからね。」


「・・・・・・その顔、うざぁ。」


 えぇ・・・という腑抜けた声とともに、だらだらと朝の新鮮な道に進む。砂利の混じる道は、キラキラと光っている。

 塀となる石たちは、鈍い色にも関わらず、鮮やかさで活き活きとしている。 

 アスカは欠伸ともに、空っぽの腹に手を当てる。


「ふあぁ・・・・・何食べようかなぁ。」


「私、暑いから、冷えたものが食べたい。」


「確かに。まぁ暑さは、まだまだこれからなんだけど。覚悟!だよ。」


 アキナはアスカをスルーしながら、イエレナを抱きかかえる。


「はぁ、暑いぃぃ。」


 ぐりぐりと顔を擦りつけながら、揉みくちゃにしていく。

 一切の抵抗をしないイエレナからたらりと汗が流れていく。


「見てるこっちが暑くなってくるよ。」


 アスカが汗を拭い、服の裾を揺らして風を舞い込んでいく。

 アキナの故郷へと向かっていた三人。その途中途中で、宿に泊まり、体と心を休めていた。

 その間、アスカとアキナ、そしてイエレナの三人は平然と日常を演出していた。

 だらだらと進んでいき、今日においても一休みをする。


「じゃ、私は、このイチゴのかき氷で。」


 すらすらとエプロンをつけた女性が紙に記していく。書き終えるとアスカに向けて手を向ける。


「俺は、モーニングで。あっ、ふたつお願いします。」


 注文が終わると、ぬるま湯となった水を置いて、女性はキッチンへと向かっていった。


「アキナ、朝からそれだけでだいじょぶ?」


「暑くて食欲無いのよ。」


 アキナが顎をテーブルに付けながら、ゴロゴロと顔を揺らす。


「ふーん、体調は?」


「だいじょぶ。なんか胸のあたりが詰まるような感じするけど。」


「ええ~・・・・吐きそう?」


「いや、う~ん、だいじょぶ。」


 心配そうに見つめるアスカの視界に白の皿が割って入ってくる。


「注文の品です。どうぞ。」


 アキナが顎をつけたまま、にこっと笑い、ありがとうございますと言う。しかしすぐに元の表情に戻ってしまう。


「昨日は寝れた?」


「うん。でも寝つきは悪かったかも。」


 ようやくアキナも体を起こし、シャクシャクと氷の塊たちを噛み溶かしていく。もごもごと溜め込んでから、こくりと一飲みで食事を進めていく。


「ねぇアスカ、少しだけさ、ペース落としてもだいじょぶ?」


「そうだね。体調が万全じゃないのに進んでもだし、のんびりいきましょう。」


 アスカは片手にコーヒーカップを握りながら、コマメな口でパンを齧る。

 ゆったり、まったりと食事を口に運んでいく。

 穏やかな朝食。

 朝にも限らず、外からは子供たちの声が聞こえてくる。


「元気だなぁ。」


「そうねぇ。」


 アキナがイエレナの口元を拭いながら、外に視線を送る。


「なんか、いいわね。こんな日も。」


 店内。

 特段、音はない。あるとすれば、外からの虫の音くらいである。

 気温が上がっているにもかかわらず、凛とした空気で満たされたそこ。入り込む光が、宙に舞う埃でさえ、煌びやかにさせている。


「そうだね。」


 アスカの瞳に青空が混じる。これでもかというほどの白い雲が浮き、その大きさには迫力すらある。


「イエレナ、おいし?」


 アキナの問いに、イエレナはコクリだけ頷き、見え隠れする目元をゆっくりと二人へと動かす。


「はぁ、ごちそうさまでした。」

 

 三人で手を合わせ、食事を終える。

 席を立ち、店を出る。

 太陽が雲に隠れるが、純白に思えるそれを透かし、なんてことなく大地に陽を与えている。

 しかしそれでも、日陰はある。

 木々の下、家の中、橋の下、そして大地の中。

 アキナは、胸のあたりに手を当てながら、アスカ達と宿舎へと戻っていくのだった。

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