ママ‐ひとつめ
人捲り、ひとめくり、宿舎にて新聞を眺め、それを見ていく。
「ねぇ、知ってる?文明を起こすほどの美少年。アイドルなんだけどね、ほんと顔が良いらしいよ。」
「へぇ、文明をつくるほど?」
ちらりとアキナの様子をみる。
「文明ねぇ・・・アキナのテンションが上がるのも頷ける。」
「・・・・あんた、まだ見たことないでしょ。かといって私もないけど。」
ベッドに腰かけているアキナは足を揺らしながら答える。
そしてアスカは顎を触りながら話題を途切れさせない。
「アキナは、イケメンがいいんだ?」
「そりゃぁ、ないよりはあったほうがいいに決まってるでしょ。」
「・・・・・さいですか。」
新聞を置き、窓を開く。
「イエレナー、朝ごはん食いに行くぞー」
こくりと頷くと、ひとっ飛びで窓枠に足を乗せる。
「あんた、身軽ねぇ。」
「まぁ、俺の弟だからね。」
「・・・・・・その顔、うざぁ。」
えぇ・・・という腑抜けた声とともに、だらだらと朝の新鮮な道に進む。砂利の混じる道は、キラキラと光っている。
塀となる石たちは、鈍い色にも関わらず、鮮やかさで活き活きとしている。
アスカは欠伸ともに、空っぽの腹に手を当てる。
「ふあぁ・・・・・何食べようかなぁ。」
「私、暑いから、冷えたものが食べたい。」
「確かに。まぁ暑さは、まだまだこれからなんだけど。覚悟!だよ。」
アキナはアスカをスルーしながら、イエレナを抱きかかえる。
「はぁ、暑いぃぃ。」
ぐりぐりと顔を擦りつけながら、揉みくちゃにしていく。
一切の抵抗をしないイエレナからたらりと汗が流れていく。
「見てるこっちが暑くなってくるよ。」
アスカが汗を拭い、服の裾を揺らして風を舞い込んでいく。
アキナの故郷へと向かっていた三人。その途中途中で、宿に泊まり、体と心を休めていた。
その間、アスカとアキナ、そしてイエレナの三人は平然と日常を演出していた。
だらだらと進んでいき、今日においても一休みをする。
「じゃ、私は、このイチゴのかき氷で。」
すらすらとエプロンをつけた女性が紙に記していく。書き終えるとアスカに向けて手を向ける。
「俺は、モーニングで。あっ、ふたつお願いします。」
注文が終わると、ぬるま湯となった水を置いて、女性はキッチンへと向かっていった。
「アキナ、朝からそれだけでだいじょぶ?」
「暑くて食欲無いのよ。」
アキナが顎をテーブルに付けながら、ゴロゴロと顔を揺らす。
「ふーん、体調は?」
「だいじょぶ。なんか胸のあたりが詰まるような感じするけど。」
「ええ~・・・・吐きそう?」
「いや、う~ん、だいじょぶ。」
心配そうに見つめるアスカの視界に白の皿が割って入ってくる。
「注文の品です。どうぞ。」
アキナが顎をつけたまま、にこっと笑い、ありがとうございますと言う。しかしすぐに元の表情に戻ってしまう。
「昨日は寝れた?」
「うん。でも寝つきは悪かったかも。」
ようやくアキナも体を起こし、シャクシャクと氷の塊たちを噛み溶かしていく。もごもごと溜め込んでから、こくりと一飲みで食事を進めていく。
「ねぇアスカ、少しだけさ、ペース落としてもだいじょぶ?」
「そうだね。体調が万全じゃないのに進んでもだし、のんびりいきましょう。」
アスカは片手にコーヒーカップを握りながら、コマメな口でパンを齧る。
ゆったり、まったりと食事を口に運んでいく。
穏やかな朝食。
朝にも限らず、外からは子供たちの声が聞こえてくる。
「元気だなぁ。」
「そうねぇ。」
アキナがイエレナの口元を拭いながら、外に視線を送る。
「なんか、いいわね。こんな日も。」
店内。
特段、音はない。あるとすれば、外からの虫の音くらいである。
気温が上がっているにもかかわらず、凛とした空気で満たされたそこ。入り込む光が、宙に舞う埃でさえ、煌びやかにさせている。
「そうだね。」
アスカの瞳に青空が混じる。これでもかというほどの白い雲が浮き、その大きさには迫力すらある。
「イエレナ、おいし?」
アキナの問いに、イエレナはコクリだけ頷き、見え隠れする目元をゆっくりと二人へと動かす。
「はぁ、ごちそうさまでした。」
三人で手を合わせ、食事を終える。
席を立ち、店を出る。
太陽が雲に隠れるが、純白に思えるそれを透かし、なんてことなく大地に陽を与えている。
しかしそれでも、日陰はある。
木々の下、家の中、橋の下、そして大地の中。
アキナは、胸のあたりに手を当てながら、アスカ達と宿舎へと戻っていくのだった。




