拠り所‐じゅういっこめ
朝日が昇るとともに、ひとつの紙切れが空から落ちる。コツっと窓ガラスをたたく一羽。アスカがそれに気づくと、緑色の羽を羽ばたかせながらまた飛び立っていった。
「依頼書か。」
アスカは外に置き去りのそれを取り、事情をヴァーゼに説明する。そのままの流れで、アスカ達は荷物を整え、旅立つ。
人のいる華やかさのなくなったヴァーゼの家、ヴァサーは駄々をこねる。
「いやぁだ!寂しい。」
「ごめんね。でも仕方がないの。アスカさん達にもやらなきゃいけないことがあるのよ。そもそも私たちんのわがままでいてくれたんだから、我慢しましょ?ね?」
ぐずるヴァサーは、部屋の隅で縮こまり、ズビズビと鼻を震わせる。コテンと倒れこみ、膝を抱え、床にべったりとくっつく。
ヴァーゼは、もう、と言いながら、ほっといたまま別室へと行ってしまう。
昼になり、キッチンが煙たくなっていく。アルコールが混じりこむ匂い。ヴァーゼは一口、コップを飲み込む。
酒、酒、酒。ヴァーゼは酒を飲むことをやめない。
そして昼食。
「お、お母さん・・・・・」
ヴァーゼは、また一口飲む下していく。
「?・・・・・んぁ?どうした?」
「・・・・・うんん・・・なんでも、ない。」
ヴァサーは、皿にあるもの平らげることなく、椅子から降りる。
「ごちそうさま。」
「あら、もういらないの?」
「・・・・・・・」
タっと駆け足で部屋の隅に収まり、部屋の全体を見る。
「元通り、じゃない。」
ぼそっと零れる。
視線を外に送る。
「ひ、引き留めて・・・・・ごめんなさい。」
次いで母の背中を見る。
大きいと思っていたそれは、視界の内に収まっている。
コップ。
きっと酒が入っているのだろうとほとんど決めつけのように思うようになっている。
どうせどうせと、心の内で繰り返していくだけで、いつの間にか時間は過ぎる。
「ヴァサー?ご飯よ?」
目を開ける。それでもヴァサーには目の前の景色がおぼろげだった。見えていたのは空想の世界、じっとそれを見ていた。
グッと飲みこむと喉が締め付けられる。感覚的ではなく、本当に。
嚥下しようとすると、首が絞められたかのように、噛み砕いた食事が喉元で止まる。飲み込めたとしても噛み砕いたものは、逆流してくる。
「だいじょうぶ?」
こくりこくりと二度頷き、再び口に何かを運んでいく。
鼻につくようなアルコールがヴァサーの周りで漂う。
ヴァーゼは酩酊のまま、あっけらかんと話を弾ませていく。けらけらとおぼらげに話していく。
ヴァサーは再び、部屋の隅に閉じこもる。思い出されるのは父が死んだ日。ヴァサーは何が何だか分かっていなかった。しかしその景色を確かに目に収めていた。
鮮烈な血飛沫と色の抜けていく父の姿。母の背中から何とか覗き込んだその世界。
ヴァサーは、自分の手を見ながら、口をパクパクと蠢かす。
”僕の手、お父さんみたい”
コップの割れる音が響き渡る。




